補助金は、振り込まれたら終わりではありません。事業再構築補助金などでは、補助事業が終わった年度の決算のあとから5年間、毎年「事業化状況報告」が続きます。補助金で始めた事業が、どれだけ売上や利益につながったかを報告する手続きです。始まる時期や数え方は補助金ごとに違います(後の「今の補助金では」で紹介します)。
報告の数字は、賃上げなどの目標に届いたかどうかの確認に使われ、届かなければ補助金の「返還」につながることがあります。事業再構築補助金などでは、利益が出たときに補助金の一部を納める「収益納付」の計算にも使われます。報告を出さないと、補助金の返還を求められたり、次の補助金に申し込めなくなったりします。
この記事では、当社が事業再構築補助金で支援した2社の報告の実例と公式資料の決まりから、5年間に何を出すのか、何を準備しておけばよいのかを紹介します。今の補助金での違いもまとめました。
この記事で分かること
- 事業化状況報告は、いつ・何回・何を出すのか
- 補助事業の分の収支を、会社全体と分けて記録しておく準備
- 収益納付・財産処分・目標未達の返還のしくみ
- 報告の内容が、次の補助金の申請にどう影響するか
この記事で取り上げる事例
- D社(飲食店の会社):テイクアウト中心の新しい業態の店を出した。3月決算。5回目の報告まで終え、残りは1回
- E社(旅行会社):本業とは別の分野で、新しいサービス事業を始めた。10月決算。4回目の報告まで終えている
どちらも事業再構築補助金の事例です。今の補助金を使ったA社〜C社の事例は、全体像の記事で紹介しています(A社:新事業進出補助金、B社:ものづくり補助金、C社:省力化投資補助金)。A社〜C社も、補助事業が終わったあとは毎年の報告が続きます。
事業化状況報告とは:6回の報告が続く
決まり:初回のあと5年間、合計6回
事業再構築補助金の「事業化状況報告システム操作マニュアル」(3.5版)によると、報告は、補助事業が完了した年度の終了後が初回です。そこから5年間、毎年続きます。初回は原則として補助事業が終わった年度の決算日の3か月後まで、2回目以降は毎年の決算日の3か月後までです。数えると6回になります。
- 1回目:補助事業が終わった年度の決算のあと
- 2回目〜6回目:その1年後〜5年後の決算のあと、毎年
報告の時期が来ると、システムからメールで案内が届きます。決算書類は、報告する年度の確定したものが必要です。試算表(決算前の集計表)では出せません。
この事例では:決算月で報告の時期が変わる
締切は決算日から数えるので、3月決算のD社と10月決算のE社では、報告の時期がまったく違います。
当社では、報告の対象になる会社ごとに「補助事業の完了日」と「決算月」を並べた一覧を作りました。完了日で1回目がどの決算になるかが決まり、決算月で毎年の締切が決まるからです。会社の側でも、この2つを予定表に書いておくと安心です。
出さないとどうなるか
事業再構築補助金の「かんたんマニュアル」には、報告をしないと補助金の返還や加算金(利息にあたるお金)の納付が必要になる場合があると書かれています。新事業進出補助金の公募要領でも、報告がない場合や数字が虚偽の場合は、交付決定の取消し・返還に加えて、以降の応募を認めないとしています。
毎年出すもの
決まり:報告書・調査票・決算書類
事業再構築補助金の操作マニュアル(3.5版)で必要とされているのは、次のものです。
- 事業化状況・知的財産権報告書(様式第13):補助事業の売上と収益、納付額の計算、知的財産権の状況
- 事業化状況等の実態把握調査票(様式第13の別紙):会社全体の数字、補助事業の分の数字、事業化の段階、今後の見通し
- 決算書類:損益計算書・貸借対照表・販売費及び一般管理費(販管費)の明細(法人の場合)
- 労働者名簿または法人事業概況説明書(法人税の申告で出す書類)
- 製造原価報告書:作っている会社だけ
- 賃金台帳:賃上げなどを条件に補助率や上限額が引き上げられた、一部の事業者
調査票の様式には、「希望的数値ではなく、実績に基づいた数値」を書くよう注意書きがあります。また、事務局の確認が終わったあとは、自社の都合で報告の内容を直せません(補助事業の手引き)。出す前に数字を確かめましょう。
この事例では:D社がそろえた書類
D社は、1・4・5回目の報告で、会社全体の決算書類に加えて、補助事業の店だけの収支を添えました。試算表や、月ごとの推移表です。3回目も、報告書の原価の根拠を書く欄に、店だけの試算表を「添付済」と書いています。4回目と5回目は、同じ欄に、原材料費と販管費の内訳を書き込んでいます。
D社もE社も製造業ではなく、製造原価報告書を作っていません。2社が報告を始めたころの操作マニュアルでは、製造原価報告書も、事業化の有無にかかわらず全事業者が登録する書類に入っていました。D社は1回目に、「製造原価報告書は作成していません。」と1行だけ書いた書面を添えています。E社も1回目・3回目・4回目に同じ形の書面を添えました。
決まりは変わる:最新のマニュアルで確かめる
今の操作マニュアル(3.5版)の書類の一覧では、製造原価報告書は「作成している事業者」が出す書類です。作っていない場合は、原価を入力する画面でチェックを入れます。ただし同じマニュアルの中には、事業化の有無にかかわらず製造原価報告書を登録する、という以前と同じ書き方も残っています。作っていない会社は、どう出せばよいかを事務局に確かめておくと安心です。
D社が3回目の報告で作った「追加報告用エクセル」は、4回目からはシステムの「その他のデータ」という項目に変わっていました。入れるのは、会社全体の損益・資産の数字、補助金で入れた設備の稼働時間、事業場内最低賃金(事業所でいちばん低い賃金)、正社員数、ほかの補助金の受給などです。エクセルは、補助事業が終わった年度から年度ごとに書く形でした。D社は、このエクセルで過去の年度の数字もさかのぼって埋めました。エクセルの注意書きには、次の報告でも提出を求める可能性があるので保管するように、とありました。
様式や出す書類は変わることがあるので、報告の前に、事務局のホームページで最新のマニュアルを確かめてください。
補助事業の分の収支を分けて記録する
決まり:補助事業「単体」の売上と原価を書く
報告では、会社全体の数字とは別に、補助事業の分の売上と原価を書きます。かんたんマニュアルでは、「補助事業単体の原価」と「補助事業を含む会社全体の原価」を並べて入力する形が示されています。ここで言う補助事業は、事業計画書に新しい事業として書いたものだけで、もとからある事業は含みません。
補助事業の分の収益額(売上から原価を引いたもの)は、後で説明する収益納付の計算にそのまま使われます。原価の根拠は、計算式などを使って具体的に説明するよう求められています。操作マニュアル(3.5版)には、「原価総額×〇%」「月額賃金×12か月」といった書き方の例があります。
D社のやり方:店を1つの「部門」として集計
D社の会計では、補助事業の店を1つの部門として集計していました。そのため、資料が残っているどの回でも、店だけの試算表や、月ごとの推移表(売上・仕入・人件費などの月ごとの動き)を出せていました。5回目の報告で原価の根拠に書いた説明は、次のような形です(金額は省略)。
- 原材料費:年度初めの在庫(期首棚卸高)+その年の仕入れ−年度末の在庫(期末棚卸高)
- 外注加工費:製造業ではないため計上なし
- 販管費:人件費(給与・法定福利費・厚生費)、減価償却費、その他の経費(家賃・水道光熱費・広告費など)を科目ごとに書き、合計する
5回目の報告書には「当該事業単体の収支表を別添」と書き、店だけの収支表を添えています。
販売数量も数えておく
報告では、補助事業の売上だけでなく、販売数量とその単位も書きます。D社は販売した個数を書きました。E社は、毎月のお客様の数を1年分足した延べ人数を書きました。1回目のD社は、店だけの費用の合計を販売個数で割って、1個あたりの原価を出しています。
収益納付・返還につながる点
決まり:利益が出ると、補助金の額を上限に納める
事業再構築補助金では、補助事業で一定以上の利益が出ると、その一部を納める「収益納付」があります。補助事業の手引きでは、次の順に計算します。
- 収益額:補助事業の売上から、その売上を得るのにかかった費用を引く
- 控除額:補助事業の経費のうち、自社で負担した額。前の年までに補助事業の利益が出ていれば、その分を差し引いた残り
- 基準納付額:(収益額−控除額)×補助金の確定額÷補助事業にかかった費用の累計
- 本年度納付額:基準納付額。ただし、これまでに納めた額と合わせて補助金の確定額を超える分は納めない
収益額が0以下の年は、納付はありません。その年の会社全体の経常利益が赤字のときも、その年の分は免除されます。この経常利益は営業外収益(受取利息など本業以外の収入)を含めない数字なので、決算書の経常利益と違うことがあります。本年度納付額が1円以上になると、審査のあとに納付命令書が届き、期限内に納めます(操作マニュアル3.5版)。
この事例では:D社は納付なし、E社は上限に達していた
D社の補助事業の分は、資料のある4回のうち3回が赤字でした。黒字になった1回も、利益が控除額(自社で負担した額)の範囲に収まり、基準納付額は0円です。どの回も本年度納付額は0円でした。
E社は新しい事業が黒字になり、3回目と4回目の報告書では基準納付額に金額が出ています。ただ、「前年度までの累計納付額」の欄が補助金の確定額と同じ額になっていて、本年度納付額は0円でした。納める額の合計は補助金の確定額が上限なので、上限に達したあとは、利益が出ても納付は増えません。
E社で出した「シミュレーション表」
報告のシステムからは、「事業化状況報告シミュレーション」というエクセルを出せます。確定した補助金の額や前の年までの報告の内容が入った状態で出てきて、売上などの見込みを入れると、補助事業が終わった年度の5年後まで納付額を試算できます。使うかどうかは任意で、報告に添付する必要はなく、入力した内容がシステムに取り込まれることもありません(操作マニュアル3.5版)。
E社では、初回の報告の日にこの表を出して保存しています。表には、次の3つが並んでいます。
- 収益に伴う納付:利益が出たときの納付(基準納付額・本年度納付額)
- 財産処分時の納付予定額:補助金で買った設備などを処分するときの納付
- 目標未達時の補助金の返還予定額:約束した目標に届かなかったときの返還
表の注記には、次のことが書かれています。
- 収益額がマイナスの年は、累計では0として扱う
- その年の決算が赤字なら、本年度納付額は0になる
- 財産処分の納付や目標未達の返還も、「前年度までの累計納付額」に足し込む
3つの納付・返還が、1つの表に並んでいるわけです。ただし今の補助事業の手引きでは、「前年度までの累計納付額」は収益納付と財産処分の納付の合計と説明されていて、目標未達の返還は書かれていません。
財産処分と、目標に届かなかったときの返還
- 財産処分:補助金で買った単価50万円(税抜き)以上の設備などは、法定耐用年数(税法で決められた、設備を使える年数)の間、売る・捨てる・貸す・ほかの目的に使うといった処分が制限されます。処分するときは事前に承認を受け、残っている帳簿上の価値などから計算した額を納めます(事業再構築補助金の補助事業の手引き)。報告の期間が終わっても、耐用年数が過ぎるまでは制限が続きます(新事業進出補助金の補助事業の手引き)
- 目標未達の返還:事業再構築補助金では、賃上げなどの目標を条件に補助率や上限額が引き上げられた一部の枠が対象です(かんたんマニュアル)
今の補助金では:収益納付より賃上げの返還に注意
同じような報告は、今の補助金にもあります。回数と収益納付の扱いは、次のとおりです(新事業・もの=新事業進出・ものづくり商業サービス補助金)。
| 補助金 | 報告の回数 | 収益納付 |
|---|---|---|
| 事業再構築 | 6回 | あり |
| 新事業進出 | 6回 | 定めなし |
| 新事業・もの | 6回 | 記載なし |
| ものづくり | 6回 | 最近の回は不要 |
| 省力化(一般型) | 5回 | 求めない |
- 新事業進出:交付規程(補助金の細かな決まり)に収益納付の条文はありません。ただし報告では、補助事業の販売金額・総原価・収益額を書きます(様式第13の別紙)
- 新事業・もの:公募要領に収益納付の記載はありません。交付規程は、この記事を書いた時点ではまだ公開されていないので、公開されたら確かめてください
- ものづくり:国の年度(4月〜3月)で区切り、年度が終わってから60日以内に報告します(公募要領)。補助事業の手引きの表には6つの報告期間が並びます。最近の公募回の手引きには、収益納付は不要とあります。ただし同じ手引きには、補助事業が終わったあとにテスト販売(試作品を試しに売ること)の収入があれば納付が必要で、試作品の量産販売などで利益が出たときも収益納付が必要になることがある、とも書かれています。以前の公募回で採択された会社や、テスト販売をした会社は、事務局に確かめてください
- 省力化(一般型):「効果報告」と呼び、事業計画の1年目が終わったあとの4月から毎年、計5回です(実績報告の手引き)。公募要領に「収益納付は求めません」とあります
今の補助金で特に気をつけたいのは、賃上げに関する返還です。表のうち事業再構築以外の4つには、どれも1人あたり給与支給総額などの伸びの目標があり、届かないと補助金の一部(場合によっては全部)を返します。事業場内最低賃金にも目標があります。新事業進出補助金や新事業・もの補助金では、事業場内最低賃金を地域別最低賃金(都道府県ごとの最低賃金)より30円以上高く保つことが、毎年の条件です。ものづくり・省力化も同じ30円で、毎年3月末の時点で確かめます。下回った年は、補助金の額を事業計画の年数で割った額を返します。
ただし、特例を使った会社は条件が変わります。最新の公募要領では、賃上げ特例(補助の上限額の引上げ)を使った会社は、地域別最低賃金より50円以上高く保つことが条件で、届かないと、上限額を引き上げた分などを返します。最低賃金引上げ特例(補助率の引上げ)を使った会社には、この30円の条件がありません。こうした目標を確かめるため、報告のときに決算書や賃金台帳の提出を求められます。計算のしかたや返還しなくてよい場合は補助金ごとに違うので、各公募要領で確かめてください。
次の申請への影響
決まり:報告の内容が減点や対象外につながる
新事業・もの補助金の公募要領には、過去の補助金の報告にかかわる決まりがあります。
- 減点:過去に新事業進出・事業再構築・ものづくりの各補助金を受けていて、直近の事業化状況報告などでの事業化の段階が「第3段階以下」のとき
- 減点:ものづくり補助金や新事業進出補助金の補助事業で、賃上げや事業場内最低賃金の目標(基本要件)を達成できなかったとき
- 大幅な減点:中小企業庁の補助金で賃上げの加点を受けて採択されたのに、その目標を達成できなかったとき。未達が報告されてから18か月の間
- 補助の対象外:事業再構築・新事業進出・ものづくりなどの補助金で、報告書を出していない、納付命令を受けたのに納めていない、返還命令を受けたのに返していない会社
事業化の段階は、次の5つです(事業再構築補助金の様式・操作マニュアル)。
- 第1段階:宣伝などを行っている
- 第2段階:注文(契約)が取れている
- 第3段階:1つ以上売れた、または1回以上サービスを提供した
- 第4段階:継続的に売れているが、利益は上がっていない
- 第5段階:継続的に売れていて、利益が上がっている
この事例では:D社は第4段階、E社は第5段階
D社は、資料が残るどの回も第4段階で報告しています。5回目の見通しの欄には、テイクアウトの需要が減ったことや、原材料・光熱費の上昇で収支の立て直しが必要なことを、そのまま書きました。E社は1回目が第4段階、3回目と4回目は第5段階です。
段階は、報告する年だけでなく、補助事業が終わってからの期間全体の状況で選ぶよう、様式に注意書きがあります。かんたんマニュアルには、補助事業の売上があれば第1・第2段階は選ばない、ともあります。今の操作マニュアルでは、報告と報告の間も四半期ごとに段階を確かめ、変わったらシステムで登録するよう求めています。
5年間のチェックリスト
D社・E社の報告と公式資料の決まりから、補助事業が終わったあとに確かめたい点をまとめました。
- 報告の時期を、すべて予定表に書いたか(事業再構築・新事業進出は完了日と決算月で決まり、ものづくりは毎年5月末まで、省力化は毎年4月から)
- 補助事業の分の売上と費用を、会計の部門などで会社全体と分けて集計しているか
- 補助事業の販売数量(個数・回数など)と単位を数えているか
- 原価の根拠を、科目ごとの内訳や計算式で説明できるか
- 決算が確定したら、決算書類・労働者名簿などをすぐそろえられるか
- 前の回の報告書や入力したデータの控えを保管しているか
- 事業再構築補助金なら、シミュレーション表で納付の見込みを確かめたか
- 補助金で買った設備を処分する前に、事務局の承認が要るか確かめたか
- 賃上げ・事業場内最低賃金の目標を、毎年の決算と賃金台帳で確かめているか
- 事業化の段階を実態どおりに選んでいるか。事業再構築補助金なら、変わったときに登録しているか
決まりは、補助金や公募の回、マニュアルの版によって変わります。最新の公募要領・補助事業の手引き・操作マニュアルで確かめてください。
まとめ
補助金をもらったあとも、5年間は報告が続きます。事業再構築補助金や新事業進出補助金では、会社全体の決算書類に加えて、補助事業の分だけの売上・原価・収益を根拠とともに示します。その数字は、事業再構築補助金では収益納付の計算に使われます。今の補助金でも、報告の内容は賃上げの目標や事業化の段階を通して、返還や次の申請にかかわります。
D社のように補助事業の分を部門で分けて集計しておけば、毎年の報告で根拠をすぐに示せます。事業再構築補助金なら、報告システムの試算表で納付と返還の欄を確かめておくと、どの数字が納付額を左右するのかが分かります。