なぜ今「賃上げ要件」が重要なのか

「補助金に採択されたはずなのに、補助金を返さなければならなくなった」——最近、こうした事例が少しずつ見られるようになっています。その原因の多くが、「賃上げ要件」の未達成です。

補助金には、採択後に「従業員の賃金を一定水準まで引き上げること」を義務づけているものがあります。この条件を「賃上げ要件」と呼びます。要件を達成できなかった場合、受け取った補助金の一部または全部を返還しなければならないケースがあります。

賃上げは社会全体の重要課題であり、政府としても補助金を通じて企業の賃上げを促進しています。そのため、2024年度以降の主要補助金では、この賃上げ要件がより厳しく設定される傾向にあります。

せっかく採択されても、後になって返還を求められては本末転倒です。この記事では、主要補助金の賃上げ要件の具体的な数値と、返還を避けるための実務的な対策をお伝えします。

採択後も気を抜かないことが大切です。
賃上げ要件は「申請時」ではなく「補助事業の実施期間中・終了後」に達成する必要があります。採択されてから取り組みを始めても間に合わないケースもあるため、申請前から計画を立てておくことが重要です。

賃上げ要件の中身を正しく理解する(誰の・いつの・どの賃金)

賃上げ要件を正しく理解するためには、まず「何の数字を、いつまでに、どれだけ上げるか」を把握することが大切です。補助金によって細かな定義が異なりますが、共通して登場するキーワードを先に整理しておきましょう。

「給与支給総額」とは

よく出てくる「給与支給総額」とは、会社が従業員全員に支払った給与・賞与などの合計額のことです。「基本給だけ」ではなく、ボーナス(賞与)や各種手当なども含めた総額で判断されます。1人あたりの平均ではなく、会社全体の合計額で計算する制度が多いため、採用・退職などによっても変動します。

「事業場内最低賃金」とは

「事業場内最低賃金」とは、その会社(事業場)の中でいちばん低い賃金を受け取っている人の時給です。国が定める地域ごとの最低賃金(「地域別最低賃金」)とは別の概念で、それより高い水準が求められることが多いです。たとえば「地域別最低賃金+30円以上」とは、国の最低賃金よりも30円高い水準を、その会社の最低ラインとして維持しなければならない、という意味です。

「CAGR(年平均成長率)」とは

「CAGR」(シーエージーアール)とは、複数年にわたる平均的な成長率を示す指標です。たとえば「給与支給総額のCAGR+3.5%以上」とは、計画期間を通じて毎年平均3.5%ずつ給与総額が増加している状態を指します。1年だけ大きく増やして他の年は横ばい、という管理ではうまくいきません。

主要補助金の賃上げ要件 早見表

各補助金の賃上げ要件をまとめました。要件が複数ある制度は、すべての条件を同時に満たす必要があります。

補助金名 給与支給総額(CAGR) 事業場内最低賃金 未達時の対応
ものづくり補助金(第23次) 年平均+3.5%以上 地域別最賃+30円以上(毎年) 給与:最終年度未達で返還/最賃:未達年ごとに補助金額÷計画年数を返還
新事業進出補助金 地域別最賃の直近5年平均成長率以上、または+2.5%以上のいずれか 地域別最賃+30円以上(毎年) 未達成率に応じ返還。CAGR0%以下で全額返還
中小企業成長加速化補助金 年平均上昇率4.5%以上 (要件なし) 未達成率に応じ返還(事業者名は非公表)
小規模持続化補助金(賃金引上げ特例) (要件なし) 申請時より+50円以上(補助事業終了時点) 特例の補助上限が適用されない
デジタル化・AI導入補助金2026 補助申請額150万円未満:CAGR+3%以上/150万円以上:CAGR+3%以上かつ事業場内最賃要件あり/IT補助金2022〜2025の再申請者:CAGR+3.5%以上 150万円以上の場合:地域別最賃+30円以上 要件により返還の可能性あり
業務改善助成金(令和8年度) (給与総額の成長率要件なし) 50円以上の引上げ(コース:50/70/90円の3種) 引上げが未達なら助成対象外
「大幅賃上げ特例」で補助上限が上がる制度もあります。
ものづくり補助金(第23次)では、給与支給総額のCAGRが+6.0%以上、かつ事業場内最低賃金が地域別最賃+50円以上の場合、補助上限額が上乗せされます。新事業進出補助金も同様に合計+6.0%かつ+50円の特例があります。賃上げ計画が積極的な企業ほど有利になる設計です。

返還が発生する具体ケース

実際にどのような状況で返還が発生するのか、具体的なケースで確認しておきましょう。

ケース1:業績不振による賃上げ見送り

補助事業が終わって数年後、売上が思ったように伸びず、賃上げの余裕がなくなってしまうパターンです。「来年こそ上げよう」と後回しにしているうちに計画期間が終わり、CAGRが目標を下回ってしまいます。ものづくり補助金では最終年度に給与CAGR未達が判明した時点で返還が発生します。

ケース2:人員構成の変化

ベテラン社員が退職して給与水準の低い新入社員を採用した結果、給与支給総額が伸び悩んだケースです。個々の社員の給与は上がっていても、総額では成長率が足りないことがあります。給与支給総額はあくまで会社全体の合計額で評価されます。

ケース3:最低賃金の引き上げへの対応遅れ

毎年10月前後に地域別最低賃金が改定されます。最賃が上がるたびに「事業場内最低賃金=地域別最賃+30円以上」の水準も自動的に上昇します。対応が遅れると、その年の要件を未達成とみなされ、新事業進出補助金では未達成率に応じた返還、ものづくり補助金では「補助金額÷計画年数」の返還が発生します。

ケース4:給与CAGR0%以下

新事業進出補助金の要領では、CAGRがゼロ以下(横ばいまたはマイナス)の場合は全額返還の規定があります。「少しくらい下回っても大丈夫だろう」という甘い見通しは禁物です。

未達を防ぐ実務チェックリスト

賃上げ要件を着実に達成するために、以下のポイントを管理していくことが重要です。

採択後の管理に不安がある方は、こちらの無料診断で自社の状況を確認することもできます。ミライズでは採択後の要件管理もサポートしています。

申請前に確認すること

採択後・事業実施中に管理すること

記録を残しておくことが大切です。
要件達成の証明には、給与台帳・賃金規程・タイムカードなどの書類が必要になります。「達成したつもりだったが書類がない」という事態を防ぐため、日頃から整理して保管しておきましょう。

やむを得ない場合の免除・緩和

「頑張ったが要件を達成できなかった」場合に、すべて一律に返還が求められるわけではありません。制度によっては、一定の条件のもとで返還が免除または緩和される規定があります。

ものづくり補助金の「付加価値額」による免除

ものづくり補助金(第23次)では、付加価値額(会社が生み出した価値の増加分)のCAGRが+3.0%以上という要件もあります。この付加価値額要件が未達であり、かつ事業者が赤字の場合には、給与支給総額に関する返還が免除される規定があります。ただし、この免除が適用されるのはあくまで例外的な状況です。

「未達成率に応じた」返還

新事業進出補助金や成長加速化補助金では、「全額返還」ではなく「未達成の程度に応じた額の返還」という仕組みが設けられています。わずかに届かなかった場合は全額ではなく一部の返還で済む可能性があります。ただし、これはあくまで「未達成のダメージを軽減する仕組み」であり、要件達成を目指すことが前提です。

「免除されるから大丈夫」という考え方は危険です。
免除規定の適用には条件があり、また制度改正により規定が変わることもあります。返還リスクを前提に計画を立てるのではなく、最初から達成できる賃上げ計画を組むことが基本です。疑問点がある場合は、早めに補助金事務局か専門家に確認しましょう。

採択後こそ伴走が必要(ミライズの採択後サポート)

補助金の支援というと「採択されるまでの申請サポート」をイメージされる方が多いのですが、実は採択後の管理こそが重要です。賃上げ要件は採択後の数年間にわたって達成し続ける必要があり、途中で状況が変わることも少なくありません。

株式会社ミライズでは、中小企業診断士が最初の相談から採択後のフォローまで直接担当します。申請書の作成を下請けに丸投げするようなことはなく、事業者様の事業内容をきちんと把握したうえで、賃上げ計画の立案から採択後の管理方法のアドバイスまで一貫してサポートします。オンライン完結で全国対応しており、採択率は70%超の実績があります。

「申請は通ったが、その後の管理が不安」という方もぜひご相談ください。採択後に返還リスクを抱えてしまわないよう、一緒に対策を考えます。

まとめ

「採択後の賃上げ要件、きちんと管理できるか心配」という段階のご相談がいちばん多いです。中小企業診断士が直接、無料でお応えします。

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