「店の名物料理を冷凍して、遠くのお客様にもネットで届けたい」。地方で飲食店を複数営むB社から、こんなご相談をいただきました。

※当社が実際に支援した事例をもとにしています。会社が特定されないよう、業種・地域・金額などの一部をぼかしています。

最初は「事業再構築補助金」でのご相談でしたが、詳しく伺うと「ものづくり補助金」のほうが計画に合うと分かり、切り替えて申請し、採択されました。ただ、手間がかかったのは採択のあとです。補助金を正式に受け取るための「交付申請」は書類の直しで提出が4回になり、補助金の額も約15%減りました。さらに、中心となる設備の納期が決まらないという事態にも直面しています。

この記事では、B社の事例をたどりながら、次の点を具体的にご紹介します。

事例の概要

項目内容
業種飲食業(飲食店を複数営む会社)
地域地方(詳しい地域は伏せています)
やりたかったこと地元で人気の名物料理を冷凍し、ネット販売で遠方のお客様にも届ける。店舗や卸先への供給量も増やす
使った補助金ものづくり補助金(製品・サービス高付加価値化枠)。最低賃金に関する特例で補助率2/3
導入する設備急速冷凍機(ブラストチラー)、プレハブ冷凍庫、器具洗浄機、真空包装機
設置する場所今ある店舗の中のセントラルキッチン(複数の店舗の料理をまとめて仕込む調理場)
事業の規模設備費は税込みで約1,600万円。補助金は約1,000万円弱で申請し、交付決定は約850万円
結果採択。交付申請は4回の提出を経て交付決定。その後、中心となる設備の納期が決まらず、事故等報告書を作成

相談のきっかけ:事業再構築補助金のつもりが、ものづくり補助金に

B社の名物料理は地元で評判で、遠方から食べに来るお客様も多く、「送ってほしい」という依頼も届いていました。ただ、今の商品は日持ちが約1週間と短く、一度に作れる量にも限りがあります。そこで、作業場を整えて名物を冷凍し、ネットで販売したいと考えたのが始まりです。

最初のご相談では、急速冷凍機・大型の冷凍庫・包装機に加えて、ネットショップやLINE公式アカウントの仕組みづくり、SNSの運用代行も挙がっていました。「飲食店からネット販売へ」という新しい事業として、事業再構築補助金で申請したいというお考えでした。

聞き取りで分かった2つのこと

ところが、詳しくお話を伺うと、次の2つが分かりました。

  1. 機械を入れるのは、今ある店舗のセントラルキッチン(加工場):新しい拠点をつくるのではなく、今の調理場に設備を入れる計画でした。
  2. 発送の依頼には、すでに店舗で応えている:遠方への発送は、規模は小さいながら、もう始まっていました。

つまりB社の計画は、まったく新しい分野に出ていくというより、今の名物の味という強みを活かして「冷凍の名物料理」という新しい商品をつくるためのものです。ものづくり補助金は、自社の技術力などを活かした新製品・新サービスの開発に必要な設備投資を支援する制度で(公募要領)、当社はこちらのほうが合うと判断しました。

計画書では、急速冷凍と真空包装で賞味期限を1年以上にできること、14時間以上かかっていた冷ます工程を短くし、今の約2.5倍の量を作れる見込みであることを示しました。試作を重ねて味や食感が変わらないことを確かめた点や、すでに出回っている冷凍品との違いも書いています(同業者の間ですでに広く普及しているものの開発は対象外のため。公募要領)。

自社で考えるときの目安:次の3点を確かめてみてください。

補助率2/3の特例を使えた理由と、気をつける点

B社が申請した回の公募要領では、補助率(費用のうち補助される割合)は中小企業が1/2、小規模事業者と再生事業者が2/3でした。B社は小規模事業者ではないため、本来は1/2です。

そこで使ったのが「最低賃金引上げに係る補助率引上げの特例」です。最低賃金に近い時給で働く従業員が一定の割合いる会社は、補助率を2/3に引き上げられます。要件は次のとおりでした。

B社が申請した回の要件(公募要領):決められた1年間のうち3か月以上、補助事業の実施場所で雇っている全従業員のうち、その都道府県の最低賃金+50円以内で雇っている従業員が30%以上いること。

B社はこの要件を満たしていたため、補助率2/3で交付決定を受けました。最終的に補助の対象になった費用で比べると、補助率1/2のときより補助金が約200万円多くなります。

特例を使うときに気をつける点

なお、補助金を受け取れるのは、実績報告を出して金額が確定したあとです(精算払い)。B社は設備費の多くを銀行からの借入でまかなう計画にしました。補助率が上がっても、先に支払うお金の準備は欠かせません。

採択後の交付申請で直したこと(提出は4回)

採択のあとは「交付申請」です。見積書などを出して事務局の審査を受け、「交付決定」(この内容で補助すると正式に決まること)をもらいます。補助事業の手引きにも、採択されても申請内容がすべて認められたわけではなく、交付申請の審査で減額や対象外になる場合があると書かれています。また、交付決定日より前に発注・契約した費用は、補助の対象になりません(補助事業の手引き)。

B社では3回の差し戻し(直しの依頼)があり、提出は4回、最初の提出から交付決定まで約3か月かかりました。主な指摘は次のとおりです。

提出事務局からの主な指摘直したこと
1回目のあと見積書の受渡場所と件名、設備の名前の不一致、特注カートと工事の中身、賃上げ計画の表明の確認、目標の確かめ方見積書の修正、補足説明書の作成、名前入りの照合表、目標の追記
2回目のあと特注カートと二次側の工事は補助対象外見積書に「補助対象外」と書き込み、経費の明細を減額、型番を追記
3回目のあと冷媒配管の工事と取扱説明費は対象外、まとめ書きの諸経費、見積書の有効期限切れ有効期限内の見積書に差し替え、経費の明細を計算し直し

4回目の提出で交付決定となりました。以下は、この事例での事務局の判断です。制度や回によって扱いが変わることがあるので、最新の公募要領・手引きで確認してください。

① 見積書の「受渡場所」を、計画書の実施場所にそろえる

B社の見積書は、受渡場所(納品先)が本店のままでした。この事例では、計画書に実施場所として書いた店舗に直すよう指示がありました。公募要領では、実施場所は「補助対象の機械装置などを設置する場所」とされ、手引きでは、事業実施場所に引き渡されないものは対象外とされています。実施場所を変えるには、事前に計画変更の承認も必要です(交付規程)。見積書の納品先は、最初から実施場所にそろえましょう。

② 設備の名前・メーカー名・型番を、すべての書類でそろえる

B社の書類では、同じ設備でも計画書は「ブラストチラー」「プレハブ冷蔵庫」、見積書は「ブラストチラー/ショックフリーザー」「プレハブ冷凍庫」と、呼び方が少しずつ違っていました。この事例での指示は次のとおりです。

手引きでも、見積金額に複数の項目が含まれる場合は内訳を示すこととされ、「〇〇一式」だけの書き方は認められていません。最初に正式な名前を決め、すべての書類で同じ書き方にしておくと、差し戻しを減らせます。

③ 本体と一緒に必要なものでも、対象外になることがある

急速冷凍機の見積書には、本体のほか「特注カート×2」や「二次側工事」(建物側の電源盤や給排水の口から設備本体までをつなぐ工事)が入っていました。手引きでは、予備品の購入費用や、据付にあたらない設置場所の整備工事・基礎工事は対象外とされています。1回目の差し戻しでは、カートは何か、2台あるのは予備品ではないか、工事で何をするのかの説明を求められ、次の補足説明書を出しました。

それでも、この事例では、2回目の差し戻しで特注カートと二次側の電気・給排水工事が対象外とされました。3回目には、冷媒配管(冷凍機と本体をつなぎ、冷やすためのガスを通す配管)の工事費・部材費と、真空包装機の現地での取扱説明費も対象外に。「試運転調整費・現場諸経費」のようなまとめ書きは内訳を求められ、現場諸経費は消すよう指示を受けました。

対象外の項目は、本見積と相見積(比べるために別の会社から取る見積書。単価50万円(税抜き)以上の設備は原則2社以上)の両方に「補助対象外」と書き込んで出し直し、経費の明細から税抜きの金額を引いて補助金を計算し直しました。一方、本体のほか、搬入・据付や試運転調整の費用、プレハブ冷凍庫の組み立て費用、運賃などは対象として認められています。

この事例で対象外とされた費用金額(税抜き・概算)
特注カート(急速冷凍機用の専用台車)約48万円
二次側の電気工事・給排水工事約51万円
冷媒配管の工事費・部材費約116万円
現地での取扱説明費約3万円
合計約220万円

この結果、補助の対象になる費用は約220万円、補助金は申請時から約150万円(約15%)減りました。

注意:どの費用が対象になるかは、交付申請のときに事務局が審査して決めます。B社では「設備を動かすのに必要」と説明したカートや工事も対象外でした。見積書は本体・付属品・工事・諸経費を分けて書いてもらい、対象外になっても資金計画が崩れないよう余裕を持ちましょう。扱いは制度や回によって変わることがあるので、迷う項目は早めに事務局へ確認してください。

④ 有効期限が切れた見積書は使えない

手引きでは、交付申請のときにも、発注するときにも、その時点で有効な見積書が必要とされています。B社の見積書は有効期限が「提出日から60日」で、差し戻しのやり取りが続くうちに期限が過ぎ、3回目の差し戻しで有効期限内の見積書に差し替えました。

B社でも、応募から交付申請までに数か月かかりました。見積書の有効期限は、審査が終わって発注するときまでを見込み、短い場合は交付申請の前に取り直しを頼みましょう。受渡場所・件名・型番もそのときにまとめて整えると、手戻りを減らせます。

⑤ 賃上げ計画の「表明」は、全員分を確かめられる形で

公募要領では、賃上げの目標を、交付申請のときまでに全ての従業員(または従業員の代表者)と役員に表明することが求められ、表明していないと交付決定の取消しや補助金の返還の対象になります。

B社は表明の記録として、従業員に送ったメールを出しました。ところが事務局からは「メールアドレスで確認できるのが1名分足りない」「アドレスだけでは誰か分かりにくいので、横に名前を書いてほしい」との指摘。足りない1名分の確認書類を追加し、メールアドレスと役員・従業員の名前の照合表を添付しました。表明の記録は、名簿と突き合わせて全員分がそろっているかを確かめてから出しましょう。

⑥ 目標は「どう確かめるか」まで決めておく

計画書では、目標を2つ立てていました。

  1. 冷凍の名物料理を、月4,300パック(2個で1パック)作れる体制を整える
  2. 県外の購入者10名にアンケートを行い、5段階で平均4以上の満足度を得る

事務局からは、①について「作れる体制が整ったことを、どう判断するのか」を問われました。1日あたりの製造量を決め、設備を入れたあとに実際に作れたかを確かめるなど、確かめ方を決めてほしい(実績報告で結果の報告が必要)という指摘です。②は、確認の時期が補助事業の期間より後だったため、期間内に直すよう求められました。そこで、申請内容のファイルはそのままにして、次の内容の別紙を添付しました。

実績報告のマニュアルでも、補助事業の期間内に「効果の検証」まで終えることが求められています。目標は「いつ・何を・どう確かめるか」まで決めておくと、実績報告で慌てずに済みます。

設備の納期が決まらないときの対応(事故等報告)

交付決定のあと、真空包装機と器具洗浄機は発注を終えて納品待ちに進みました。ところが、中心となる急速冷凍機とプレハブ冷凍庫は、発注先から「現時点で納期を確定できない」という回答が届きました。

原因は、原料不足による業界全体の遅れ

原因は、海外情勢の影響で、石油からつくる原料が世界的に不足したことでした。業務用の冷凍機器は、断熱パネル(硬質ウレタンフォーム)や塗料、シーリング材など石油由来の材料を多く使うため、業界全体で製造・出荷が滞っていました。販売店を通じてほかのメーカーにも打診しましたが、どこも同じ状況で、納期の約束は得られませんでした。

すぐに報告が必要な理由

補助の対象になるのは、補助事業の期間内に発注から支払いまでを終えた費用です(補助事業の手引き)。しかも、この2つは冷やす・凍らせる・保管するという計画の中心を担う設備で、ほかの設備だけが入っても、計画した量を作れる体制はできません。

交付規程では、自分の責任によらない理由で予定の期間内に終えられない見込みになったときなどは、速やかに「事故等報告書」を事務局に出し、指示を受けることになっています。手引きでも、納入が期限までに終わらないなどの事情が分かったら、速やかに事務局へ連絡するよう求めています。

事故等報告書に書いたこと

B社では、決められた様式で事故等報告書を作り、次の4つを整理しました。

  1. 事業の進み具合:設備ごとの発注・納品の状況。中心の2設備が入らないと計画の目的を果たせないこと
  2. 事故等の内容と原因:「納期を確定できない」という回答と、原料不足の背景。自社の責任ではない不可抗力であること
  3. とった措置:販売店への納期確認を続けていること、ほかのメーカーへ打診した結果
  4. 今後の見通し:販売店の見立てでは年内に事業を終えられる見込みで、期間の延長を認めてもらったうえで確実に完了させること

裏付けとして、メーカーが公表した案内文(塗装用の材料の調達難に関するお知らせ)と、国土交通省の事務連絡(原料不足を踏まえた対応についての通知)を添付しました。交付規程では、事故の報告に対して事務局から指示を受けた場合に限り、指示された期間までを実施期間にできるとされています。だからこそ「自社ではどうにもならない事情であること」と「打てる手は打っていること」を、公的な資料と経緯で示すことが大切です。

ポイント:納期が危ないと分かった時点で、すぐに支援者や事務局へ相談しましょう。メーカーや販売店の回答は、メールなど記録に残る形で受け取ると報告の裏付けになります。50万円(税抜き)以上の設備を別の設備に変える場合は、事前に計画変更の承認が必要です(交付規程)。扱いは制度や回によって変わることがあるので、最新の公募要領・手引きで確認し、事前に事務局へ相談してください。

この事例から学べるコツ・注意点(チェックリスト)

B社の事例から、ほかの会社にも役立つポイントをまとめました。

まとめ

B社の事例では、補助金の選び直し、補助率の特例、4回の交付申請、設備の納期遅れと、さまざまな手続きがありました。振り返ると、手間の多くは採択のあとに集中しています。補助金は採択されて終わりではなく、交付申請・発注・納品・実績報告まで見通して、書類と資金と日程に余裕を持って準備することが大切です。

当社では、この事例のように、申請だけでなく、交付申請や事故等報告、実績報告の準備まで一緒に進めています。「採択されたあとが不安」という方も、お気軽にご相談ください。

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