2026年度、賃上げは補助金の「必須条件」になった
2026年度の補助金では、ほぼすべての主要な制度で「賃上げ」が申請の必須条件になりました。以前は「賃上げすれば加点される(有利になる)」という位置づけの制度も多かったのですが、今年度からは「賃上げの計画がないと、そもそも申請できない」という制度が大半です。
「うちの会社でも賃上げしないといけないの?」「どのくらい上げればいいの?」——そんな疑問をお持ちの方に向けて、この記事では主要な補助金の賃上げ要件を比較しながら、わかりやすく解説します。
・なぜ補助金に「賃上げ」が求められるのか
・制度ごとの賃上げ要件の違い(比較表つき)
・「賃上げ」の具体的な意味と計算方法
・達成できなかった場合のリスクと対策
なぜ補助金に賃上げが求められるのか
国が補助金で賃上げを求める背景には、次のような理由があります。
- 物価上昇への対応:物価が上がっているのに給料が上がらないと、従業員の生活が苦しくなります。国として賃上げを後押ししたいという方針があります。
- 人手不足への対策:中小企業が人材を確保するには、給与水準を上げることが欠かせません。補助金を通じて設備投資と賃上げを同時に進めてもらおう、という考えです。
- 補助金の効果を高めるため:設備投資で生産性が上がれば、その分を従業員の給与に還元できるはず。国としては「投資→生産性向上→賃上げ」という好循環を目指しています。
つまり、「補助金で会社を強くするなら、従業員にもきちんと還元してほしい」というのが国の基本的な考え方です。
制度別の賃上げ要件を比較
主要な補助金の賃上げ要件を、一覧表でまとめました。
| 補助金名 | 賃上げ要件 | 特例・加点 |
|---|---|---|
| ものづくり補助金 | 事業場内最低賃金を地域の最低賃金+30円以上にする/1人あたり給与支給総額を年平均3.5%以上増加(または給与支給総額を年率2%以上増加) | +50円以上+1人あたり給与支給総額年率6%以上で補助率2/3+補助上限額の引き上げ |
| 省力化投資補助金 | 賃上げの計画が必須。達成で補助上限が引き上げ(最大1億円) | 大幅賃上げで補助上限額が拡大 |
| 成長加速化補助金 | 賃上げが前提条件。1人あたり給与支給総額を年平均4.5%以上増加させる計画が必須 | 未達の場合は未達成率に応じて補助金返還 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 賃金引上げ特例で申請する場合、事業場内最低賃金を+50円以上引き上げ | 賃金引上げ特例で補助上限200万円に拡大(通常枠50万円+150万円上乗せ) |
| 新事業進出補助金 | 1人あたり給与支給総額を年平均3.5%以上増加/事業場内最低賃金を地域最低賃金+30円以上 | 大幅賃上げ特例(年率6%以上+最低賃金+50円)で補助上限額引き上げ |
このように、制度によって求められる内容や水準は異なりますが、「事業場内最低賃金の引き上げ」と「給与支給総額(1人あたり含む)の増加」の2つが共通のキーワードになっています。
「賃上げ」の具体的な意味
補助金の世界で「賃上げ」というとき、実は2つの意味があります。混同しやすいので、それぞれ確認しておきましょう。
給与支給総額の増加
給与支給総額とは、会社が従業員全員に支払う給料の合計額のことです。基本給だけでなく、残業代や各種手当も含まれます。
多くの補助金では、この総額(または1人あたりの額)を「年平均3.5%以上」や「年平均4.5%以上」など、一定の割合で増やす計画が求められます。制度によって求められる数字は異なります。
たとえば、1人あたりの年間給与が400万円の会社なら、年平均3.5%の場合は14万円以上の増加が必要です。新しく人を雇った場合や昇給を組み合わせることで、達成しやすくなります。
事業場内最低賃金の引き上げ
事業場内最低賃金とは、その会社(事業場)で最も時給が低い従業員の賃金のことです。パートやアルバイトの方も含みます。
多くの補助金では、この金額を地域の最低賃金よりも30円以上高くすることが求められます。たとえば、地域の最低賃金が1,000円なら、自社の最低賃金を1,030円以上にする必要があります。
月給制の社員の場合は、「月給 ÷ 月の所定労働時間」で時給換算します。たとえば月給18万円で月の所定労働時間が160時間なら、時給換算は1,125円になります。各種手当(通勤手当・時間外手当など)は含めずに計算するのが一般的です。
賃上げ特例を活用するとどれだけ変わるか
賃上げの要件をしっかり満たすと、補助金の額が大きく変わることがあります。具体的な例で見てみましょう。
ものづくり補助金の場合
たとえば、1,000万円の設備投資をする場合:
- 通常の賃上げ(最低賃金+30円+給与年平均3.5%増):補助率1/2 → 補助額500万円
- 大幅賃上げ特例(最低賃金+50円+給与年平均6%増):補助率2/3 → 補助額約666万円
差額は約166万円。大幅賃上げ特例を適用することで、補助金が166万円増えるわけです。さらに補助上限額自体も引き上げられます。
省力化投資補助金の場合
賃上げの達成度合いに応じて、補助上限額が段階的に引き上げられます。
- 通常:補助上限 数百万円程度
- 賃上げ達成:補助上限が最大1億円まで拡大
大きな投資を検討している会社にとって、賃上げ要件を満たすかどうかで使える補助金の額が桁違いに変わります。
達成できなかった場合のペナルティ
「賃上げを約束して補助金をもらったけれど、結局達成できなかった」——そんな場合にはどうなるのでしょうか。
申請時に「賃上げします」と計画を出している以上、それを守れなかった場合のペナルティは避けられません。ただし、天災や予期せぬ経済環境の悪化など、やむを得ない事情がある場合は、事務局に相談することで猶予や免除が認められるケースもあります。
具体的なペナルティの内容は制度によって異なりますが、主なものは次のとおりです。
- 補助金の一部返還:賃上げの未達分に応じて、補助金の一部を返すよう求められる
- 補助金の全額返還:悪質な場合や大幅に未達の場合は、全額返還になることもある
- 次回以降の申請への影響:過去に未達がある場合、次の申請で減点されることがある
大切なのは、「無理な計画を立てない」ことです。達成できる見込みのある数字で申請しましょう。
中小企業が無理なく賃上げするための5つのヒント
「賃上げしたいのは山々だけど、経営的に厳しい……」という声はよく聞きます。でも、いくつかの工夫で無理なく進められるケースも多いです。
1. まず補助金で生産性を上げてから賃上げする
補助金の本来の目的は「生産性の向上」です。設備投資やシステム導入で業務の効率が上がれば、その分の利益を賃上げに回すことができます。「先に投資→利益が増える→賃上げできる」という順番で考えましょう。
2. 新規採用を含めて計画する
給与支給総額の増加は、新しく人を雇った分も含まれます。もともと採用を考えていた場合は、その分を賃上げ計画に組み込むことで、既存社員の負担を抑えながら要件を満たせます。
3. パート・アルバイトの時給を少しだけ上げる
事業場内最低賃金の要件は、最も時給が低い方の賃金を上げることで対応できます。地域の最低賃金が上がるタイミングに合わせて+30円〜+50円以上に調整するだけでOKなケースも多いです(必要な引き上げ幅は制度によって異なります)。
4. 賃上げ以外の制度も活用する
賃上げと併せて、国の「業務改善助成金」など、賃上げを支援する別の制度を活用する方法もあります。最低賃金を引き上げた企業に対して、設備投資の費用を助成してくれる制度です。補助金と組み合わせれば、負担をかなり軽くできます。
5. 無理のない範囲で段階的に進める
賃上げ要件には「3〜5年の事業計画期間内に達成する」というものが多く、初年度に一気に上げる必要はありません。3年間で段階的に上げていく計画にすれば、経営への負担を分散できます。
よくある質問
赤字の会社でも賃上げ要件は免除されない?
原則として免除はされません。ただし、一部の補助金では「赤字の場合は給与支給総額の増加要件を緩和する」という特例が設けられていることがあります。公募要領をよく確認するか、専門家に相談してみてください。
役員報酬を上げれば賃上げ要件を満たせる?
原則として、役員報酬は給与支給総額に含まれません。あくまで「従業員に支払う給与」が対象です。ただし、制度によって定義が異なる場合もあるため、こちらも公募要領の確認が必要です。
賃上げの計画を出して採択されたあとに、達成が厳しくなったらどうする?
まずは早めに補助金の事務局に相談してください。やむを得ない事情がある場合は、計画の修正や猶予が認められることがあります。黙って放置するのが最もリスクが高いです。
まとめ
- 2026年度は、ほぼすべての主要な補助金で賃上げが必須条件になっている
- 求められるのは主に「事業場内最低賃金の引き上げ(+30円〜+50円以上)」と「1人あたり給与支給総額の年平均3.5〜4.5%以上の増加」
- 賃上げ特例を活用すると、補助率や補助上限額が大幅にアップすることがある
- 達成できなかった場合は補助金の返還リスクがあるので、無理のない計画を立てることが大切
- 生産性向上と組み合わせれば、中小企業でも無理なく賃上げは可能
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