「また最低賃金が上がる。これ以上、人件費が膨らんだらうちは厳しい」——中小企業の経営者の方から、毎年この時期に多く聞かれる声です。
2026年も最低賃金は引き上げが予定されており、人件費のアップは避けられません。ただし、補助金や助成金をうまく使えば、賃上げに必要な原資(もとになるお金)を作ることができます。
この記事では、最低賃金アップに対応するための補助金・助成金3本柱を、やさしく解説します。
・最低賃金アップに使える補助金・助成金3つの違い
・業務改善助成金・省力化投資補助金・ものづくり補助金の仕組み
・併用するときのルールと注意点
・補助金あり・なしで手元資金にどれだけ差が出るか
賃上げを乗り切る3つの選択肢
人件費が増えるとき、中小企業の打ち手は大きく3つしかありません。
- 値上げする:商品・サービスの価格を上げる
- 人を減らす:採用を抑える、業務を見直す
- 生産性を上げる:同じ人数で、より多くの仕事をこなせるようにする
このうち、③の生産性向上こそが、補助金が最も力を発揮する場面です。設備投資やIT化で作業時間を減らせば、同じ売上でも利益が増え、そこから賃上げの原資を作ることができます。
賃上げを後押しする補助金・助成金3本柱
① 業務改善助成金(厚生労働省)
最低賃金を上げた中小企業に対して、設備投資費の一部を補助する厚生労働省の助成金です。「賃上げ」と「設備投資」をセットで実施する前提で申請します。
- 対象:事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げる中小企業・小規模事業者
- 補助上限額の目安:引き上げた金額と対象人数により30万〜600万円程度
- 補助率の目安:3/4〜9/10(事業場規模・生産性要件で変動)
- 特徴:賃上げが必須要件。事業計画書の内容も審査される
② 省力化投資補助金(人手不足対策)
人手不足に悩む中小企業が、省力化のための設備やシステムを導入する際の費用を補助する制度です。カタログ型と一般型の2種類があります。
- 対象:人手不足の中小企業・小規模事業者
- 補助上限額の目安:カタログ型で従業員数により200万〜1,500万円程度、一般型で最大1億円
- 補助率の目安:1/2(小規模事業者は2/3)
- 特徴:一般型は賃上げが必須要件。達成で補助上限が最大1億円まで引き上げ
③ ものづくり補助金(設備投資で生産性向上)
新しい製品・サービスの開発や、生産性を高めるための設備投資を支援する補助金です。賃上げは基本要件(必須)になっており、さらに大幅な賃上げを行う企業には補助上限が引き上がる特例もあります。
- 対象:革新的な取り組みを行う中小企業(製造業・サービス業とも可)
- 補助上限額の目安:最大4,000万円
- 補助率の目安:1/2(小規模事業者は2/3)
- 特徴:賃上げは必須要件。「大幅賃上げ特例」で補助上限が引き上げ
3制度の違いを比較
| 項目 | 業務改善助成金 | 省力化投資補助金 | ものづくり補助金 |
|---|---|---|---|
| 所管 | 厚生労働省 | 中小企業庁 | 中小企業庁 |
| 補助上限 | 30万〜600万円 | 200万〜1億円 | 最大4,000万円 |
| 補助率 | 3/4〜9/10 | 1/2(小規模は2/3) | 1/2(小規模は2/3) |
| 賃上げ要件 | 必須 | 一般型は必須(達成で上限アップ) | 必須(大幅賃上げ特例あり) |
| 審査方式 | 計画審査(比較的通りやすい) | カタログ型は手軽、一般型は計画書あり | 計画書の審査(難しめ) |
| 申請の手軽さ | ★★★☆☆ | ★★★★☆(カタログ型) | ★★☆☆☆ |
業務改善助成金の仕組み
業務改善助成金は、「賃上げ」と「設備投資」がセットになっているのが最大の特徴です。「最低賃金を○円以上引き上げる」という約束をしたうえで、生産性を上げるための設備を導入する、という流れです。
使い方のイメージ
- 事業場内の最低賃金を30円引き上げる(例:時給1,050円→1,080円)
- 業務効率化のためにPOSレジ(売上を自動記録するレジ)・在庫管理ソフト・機械を導入する
- 導入費用の一部(補助率3/4〜9/10)を助成金として受け取る
- 賃上げは実施した後、必ず維持する必要がある
省力化投資補助金の2つの申請枠
カタログ型
あらかじめ登録された省力化製品のなかから選んで導入する仕組みです。手続きが比較的シンプルで、初めて補助金に挑戦する企業にも使いやすいのが特徴です。配膳ロボット、自動精算機、見守りセンサーなど、登録された機器が対象になります。
一般型
カタログにない、自社独自の省力化設備やシステムを導入する場合に使います。補助上限が大きく(最大1億円)、大規模な自動化投資に対応できます。ただし詳細な事業計画書の作成が必要です。
ものづくり補助金の賃上げ要件
ものづくり補助金では、以下のような賃上げ計画が基本要件(必須)として求められます。
- 事業場内の最低賃金を地域別最低賃金より一定額以上引き上げる
- 給与支給総額を年率一定以上アップさせる
- これらをさらに上回る「大幅賃上げ特例」を選ぶと、補助上限が引き上がる
言い換えれば、ものづくり補助金は賃上げに取り組む企業のための制度になっているということです。最低賃金アップへの対応を機に、ものづくり補助金でまとまった設備投資をする——という流れはとても理にかなっています。
補助金あり・なしで、手元資金はどれだけ違う?
実際、補助金を使うとどれくらい負担が減るのか、シンプルな例でシミュレーションしてみます。
ケース:500万円の省力化機器を導入する場合
| 条件 | 自己負担額 | 手元に残る資金の差 |
|---|---|---|
| 補助金なし(全額自己負担) | 500万円 | 基準 |
| 省力化投資補助金(補助率1/2) | 250万円 | +250万円 |
| ものづくり補助金(補助率2/3、小規模) | 約167万円 | +333万円 |
| 業務改善助成金(補助率3/4〜9/10) | 50万〜125万円 | +375万〜450万円 |
補助金を活用すれば、同じ設備投資でも手元に残る資金が大きく変わります。その分を、賃上げの原資に回すことができます。
併用のコツと注意点
同じ経費への二重受給はNG
たとえば同じ「POSレジ」に業務改善助成金と省力化投資補助金の両方を適用することはできません。ただし、別々の経費に別の補助金を使うことはOKです。
別経費ならOKの例
- 業務改善助成金:POSレジを導入して業務効率化(150万円)
- 省力化投資補助金:配膳ロボットを導入して省力化(300万円)
このように、導入する設備を分けて、それぞれに別の補助金を使うという組み合わせは多くの企業で活用されています。
賃上げの「維持」が重要
これらの補助金・助成金では、賃上げを実施するだけでなく維持することが求められます。計画時に「無理な賃上げ幅」を設定して、後で戻せなくなるパターンに注意してください。
関連コラム
賃上げや補助金活用について、もっと詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
- 補助金と賃上げ要件について
- 省力化投資補助金とは? カタログ型と一般型の違いをわかりやすく解説
- ものづくり補助金とは? 2026年最新版の概要・申請枠・スケジュール
- 中小企業が使える補助金一覧【2026年版】主要5制度を比較
- 知らないと損する!補助金にまつわる5つの誤解
まとめ
- 最低賃金アップに対応する方法は「値上げ」「人を減らす」「生産性向上」の3つ
- 生産性向上には業務改善助成金・省力化投資補助金・ものづくり補助金の3本柱が使える
- 業務改善助成金は補助率3/4〜9/10で手厚いが、賃上げが必須要件
- 省力化投資補助金(一般型)とものづくり補助金も賃上げは必須要件。大幅賃上げで補助上限アップの特例あり
- 同じ経費への二重受給はNG。別経費なら併用OK
- 賃上げは「できる範囲」で継続することが大切