はじめに ― 採択率37.2%が意味すること

新事業進出補助金の第1回公募の結果が公表されました。応募3,006件に対して採択は1,118件、採択率は約37.2%です。おおよそ3社に1社が通った計算になります。

この数字をどう見るかは人それぞれですが、裏を返せば約6割の申請は不採択だったということです。最大9,000万円(大幅賃上げの場合)、補助率1/2という大きな支援を受けられるチャンスですから、しっかり準備をして臨みたいところです。

この記事では、第1回の結果データをもとに「どんな企業が通りやすいのか」「審査で見られるポイントは何か」を整理し、次回以降の申請に向けた具体的なコツをお伝えします。

第1回の結果から見える傾向

業種別の傾向 ― 製造業が最多

第1回の結果を業種別に見ると、製造業が応募617件・採択320件と最も多い結果となりました。製造業は新しい製品や生産ラインへの設備投資と結びつきやすく、「新事業への進出」を具体的に示しやすい業種と言えます。

ただし、製造業以外でも採択された企業は多くあります。大切なのは業種そのものではなく、「今の事業から新しい分野に踏み出す理由と計画がしっかりしているかどうか」です。サービス業や小売業でも、計画の中身が充実していれば十分にチャンスがあります。

申請額の傾向 ― 2,000万〜2,500万円が最多

申請額の分布を見ると、2,000万〜2,500万円の範囲が763件で最も多くなっています。従業員20人以下の企業の補助上限が2,500万円(通常枠)であることから、小規模な企業が上限に近い金額で申請しているケースが多いと推測されます。

金額が大きいから有利・不利ということはありません。重要なのは、その投資額が「事業計画の中身と見合っているかどうか」です。無理に金額を膨らませるよりも、必要な投資を過不足なく計画に盛り込むことが大切です。

第1回 新事業進出補助金の結果まとめ

応募件数:3,006件 / 採択件数:1,118件 / 採択率:約37.2%

業種別最多:製造業(応募617件、採択320件)

申請額最多帯:2,000万〜2,500万円(763件)

補助上限:最大9,000万円(大幅賃上げ特例)/ 補助率:1/2

コツ1:「なぜ新事業なのか」のストーリーを明確にする

審査員が最初に知りたいのは、「この会社はなぜ今、新しい事業に取り組む必要があるのか」という点です。ここが曖昧だと、計画全体の説得力が弱くなります。

たとえば、以下のようなストーリーが考えられます。

大切なのは「儲かりそうだから」ではなく、「自社の強みを活かして、社会やお客様の課題を解決する」という視点で語ることです。自社がこれまで培ってきた経験・技術・人脈が、新事業にどうつながるのかを丁寧に説明しましょう。

「新規性」の示し方が重要

審査では「新規性」が重視されます。ここで言う新規性とは、世界初の技術を開発することではありません。「自社にとって新しい取り組みであること」「これまでの事業とは異なる市場・顧客に向けたものであること」を明確に示せればよいのです。

具体的には、「既存事業ではどんな顧客にどんな商品を提供しているのか」と「新事業ではどんな顧客にどんな商品を提供するのか」を並べて、違いがはっきり分かるように書くと効果的です。

コツ2:数値計画は「根拠」が命

事業計画には売上予測や経費の見込みなど、多くの数値が並びます。審査員が見ているのは数字の大きさではなく、「その数字にどれだけ裏付けがあるか」です。

売上予測の根拠を示す

「3年後に売上○○万円」と書くだけでは不十分です。以下のように、数字の根拠を具体的に示しましょう。

付加価値額の成長率 年4%をどう達成するか

新事業進出補助金では、付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)を年率4%以上成長させる計画が必要です。これは必須の要件なので、達成の道筋をしっかり書きましょう。

たとえば、付加価値額が現在3,000万円の企業であれば、3年後には約3,374万円以上が必要です。新事業による売上増加がどのように利益に結びつくのか、人件費の変動はどうなるのかを、年度ごとに分解して説明すると説得力が増します。

付加価値額の年4%成長(計算例)

現在の付加価値額:3,000万円の場合

1年後:3,120万円 / 2年後:3,245万円 / 3年後:3,374万円

新事業で年間374万円以上の付加価値を生み出す計画が必要です。

コツ3:減点されるパターンを避ける

審査には「加点」だけでなく「減点」もあります。せっかく良い計画を書いても、減点に該当してしまうと大きなマイナスになります。第1回の公募要領で示されている減点対象を確認しておきましょう。

減点されるパターン

1. 容易に製造できる新製品 ― 既存の技術で簡単に作れるもの、差別化が乏しいもの

2. 既存製品の単純な組み合わせ ― AとBをくっつけただけ、のような取り組み

3. 過去の補助事業で成果が出ていない ― 以前に補助金を受けたが、事業化が進んでいないケース

パターン1への対策:「なぜ簡単にまねできないか」を説明する

新製品・新サービスを計画する場合、「他社が簡単にまねできない理由」を書くことが重要です。自社の独自技術、長年の経験から得たノウハウ、特定の顧客との信頼関係など、参入障壁(他社が簡単には追いつけない強み)を具体的に説明しましょう。

パターン2への対策:「組み合わせで生まれる新しい価値」を示す

既存の要素を組み合わせること自体が悪いわけではありません。問題は「ただくっつけただけ」になっている場合です。組み合わせることで、これまでにない価値が生まれることをしっかり説明しましょう。「お客様のこんな困りごとを、この組み合わせによって初めて解決できる」という視点で書くと良いでしょう。

パターン3への対策:過去の反省と改善を正直に書く

過去に補助金を受けたことがある企業は、その事業の進み具合を正直に振り返りましょう。もし思うように進んでいない場合は、その原因と改善策を具体的に記載した上で、今回の計画ではどう活かすのかを説明します。「前回の失敗を隠す」のではなく、「前回の経験を糧にしている」という姿勢が大切です。

コツ4:口頭審査は経営者の「本気度」を見せる場

新事業進出補助金の大きな特徴の一つが口頭審査です。オンラインで実施され、参加できるのは経営者本人のみ。コンサルタントや社員の同席はできません。

口頭審査では、提出した事業計画書の内容について審査員から質問されます。ここで問われているのは、計画書の細かい数字を暗記しているかどうかではなく、「この経営者は本気で新事業に取り組むつもりがあるか」です。

口頭審査の準備方法

  1. 事業計画書を自分の言葉で説明できるようにする ― 計画書の作成を専門家に任せきりにしていると、質問に答えられません。自分で内容を十分に理解しておきましょう。
  2. 想定質問を用意して練習する ― 「なぜこの事業に取り組むのか」「売上の見込みの根拠は」「リスクにはどう対処するか」「既存事業との違いは」など、聞かれそうな質問への答えを準備しておきましょう。
  3. 簡潔に答える練習をする ― 長々と話すよりも、結論を先に述べてから理由を説明する形が好まれます。1つの質問に対して1〜2分程度で答えられるようにしましょう。
  4. 通信環境を整える ― オンラインで実施されるため、インターネットの接続状況やカメラ・マイクの動作を事前に確認しておくことも大切です。

口頭審査のポイントまとめ

形式:オンライン(ビデオ通話)

参加者:経営者本人のみ(代理・同席は不可)

見られること:事業への理解度、本気度、計画の実現可能性

準備の目安:想定質問10〜15問への回答を用意し、声に出して練習する

コツ5:再申請するなら計画を根本から見直す

第1回で不採択だった場合、次回の公募で再申請することができます。ただし、同じ内容をそのまま出し直すことは認められていません。再申請の際は、事業計画を見直すことが必須とされています。

「少し手直し」ではなく「根本から見直す」

不採択になったということは、計画のどこかに弱い部分があったということです。文章を少し書き換える程度の修正では、同じ結果になる可能性が高いでしょう。以下のような観点で、計画全体を見直すことをおすすめします。

再申請時の注意点

同一内容での再申請は認められていません。前回からどこをどう改善したのかを明確にした上で申請しましょう。可能であれば、前回の不採択理由を分析し、弱点を重点的に強化することが再申請成功の近道です。

まとめ ― 専門家と一緒に準備することの価値

新事業進出補助金の採択率は約37.2%。決して低くはありませんが、何の準備もなく通るほど甘くもありません。この記事でお伝えした5つのコツを改めて整理します。

  1. 「なぜ新事業なのか」のストーリーを明確にする
  2. 数値計画は根拠を添えて説得力を持たせる
  3. 減点されるパターンを事前に把握して避ける
  4. 口頭審査は経営者自身が準備し、本気度を伝える
  5. 再申請するなら計画を根本から見直す

事業計画書の作成は、経営者お一人で取り組むには負担が大きい作業です。特に、補助金の審査基準に合わせた書き方や数値計画の組み立て方には、経験に基づくノウハウが求められます。

認定支援機関などの専門家と一緒に準備することで、計画の質が大きく変わります。「自社の強みは分かっているけれど、それをどう計画書に落とし込めばいいか分からない」という方は、ぜひ早めにご相談ください。第2回の公募に向けて、今から準備を始めることが採択への一番の近道です。

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