「採択されたら、すぐに作業を始めてよいのか」「業者に早めの契約を勧められたら、どうすればよいのか」。補助金で投資をするとき、多くの会社が迷うのが「いつから契約してよいのか」です。

この記事で取り上げる2つの補助金には、交付決定(補助金を出すことが正式に決まること)より前に契約・発注した経費は対象にしない、という決まりがあります。交付決定の前に始めることを「事前着手」といい、どちらの補助金でも認められていません。先に契約した経費は、まるごと自己負担です。注文書を出すことだけでなく、補助の対象にする作業を先に始めることも、同じ問題になりえます。

当社が支援した2つの事例をもとに、この線引きを具体的に見ていきます。

※当社が実際に支援した事例をもとにしています。会社が特定されないよう、業種・地域・金額などの一部をぼかしています。

どちらも、申請を準備した段階の話です。省力化投資補助金の計画づくりの全体はC社の事例紹介に、建物の工事を含む交付申請の流れはA社の事例紹介にまとめています。

この記事で分かること

※ページは、当社が参照した版のPDFのページ番号です(印刷されたページ番号とずれることがあります)。省力化の「交付申請の手引き」は、参照した時点で最新だった前の回の公募向けの版で、事業の期間がこの記事で引いた公募要領と違います。期間は公募要領に従ってください。公募の回によって内容が変わるので、申請する回の最新の公募要領・手引きで確かめてください。

前提:採択のあとに「交付申請」と「交付決定」がある

採択(審査に通ること)されても、すぐに事業を始められるわけではありません。採択のあと、交付申請(見積などを出して、補助の対象にする経費を事務局に確かめてもらう手続き)を経て交付決定を受け、ようやく契約・発注ができます。そのあと納品・検収(届いた物を確かめて受け取ること)と支払いを終え、実績報告(何にいくら使ったかを証拠の書類とともに報告する手続き)を出します。

決まり省力化(一般型)新事業進出・もの
(新事業進出枠)
交付申請の期限採択発表から2か月採択発表から2か月
事業の期間の上限交付決定から17か月交付決定から14か月
外側の上限採択発表から19か月採択発表から16か月
期間内に終えること契約〜実績報告契約〜実績報告

※省力化:公募要領 p.26・p.27。新事業進出・もの:公募要領 p.9・p.54・p.56・p.57。新事業進出・ものの革新的新製品・サービス枠は、交付決定から10か月(採択発表から12か月)です(公募要領 p.8)。

実績報告の期限は、どちらも、完了から30日以内か完了の期限日の、早いほうです(省力化:応募申請の手引き p.9、新事業進出・もの:公募要領 p.57、よくある質問 Q34)。完了の期限日は、事業の期間の最後の日です(省力化:交付規程 第6条、新事業進出・もの:応募申請ガイド p.20)。新事業進出・ものは、期間内に支払いまで終え、報告は遅くとも完了の期限日までに出します(公募要領 p.56・p.57)。期限までに報告を出さないと、交付決定の取消の対象になります(省力化:交付規程 第23条、新事業進出・もの:公募要領 p.57)。支払いを期限日ぎりぎりにすると、報告が間に合いません。省力化は、完了日までに設備を使い始めていることも必要です(応募申請の手引き p.23)。

事業の期間は交付決定の日から始まり(省力化の交付規程 第6条)、採択発表から数えた外側の期限もあります。交付申請が遅れるほど、使える期間は短くなります(新事業進出・もの 応募申請ガイド p.20)。

なぜ事前着手はダメなのか:決まりの組み立てから見る

公式資料に、禁止の理由そのものは書かれていません。ただ、決まりの組み立てを見ると、交付決定の前の契約の位置づけが分かります。

交付決定の前の契約は、事務局が確かめる前に、事業の期間の外で決まった経費です。省力化の公募要領は「いかなる理由であっても事前着手は認められません」と書き(p.22)、新事業進出・ものも、よくある質問で「事前着手は認められていません」と答えています(Q41)。

しかも、どちらの補助金も、応募時に計上していない経費を交付申請で足すことはできません(省力化では、設備に付随するオプションや周辺機器は、計画が変わらない範囲で認められます)。新事業進出・ものでは、減額で補助金が下限(新事業進出枠は750万円)を下回ると、採択取消です(省力化 交付申請の手引き p.21、新事業進出・もの 公募要領 p.55)。

どこからが「着手」か:資料に書かれている線

やること資料での扱い
見積・相見積を取る交付申請で必要
仕様書・カタログなど省力化は応募で必要
契約・発注交付決定のあと
リース契約交付決定のあと
納品・検収・支払い交付決定のあと
応募の前にした発注対象外

新事業進出・ものの公募要領は、対象外になるものを「製品の購入や役務の提供に係る契約(発注を含む)等」と書いています(p.56)。役務とは人が行う作業やサービスのことで、開発会社が行う要件定義や設計もその一つです。

一方、見積の依頼と契約の間のやり取り(「この会社に頼む予定です」と伝えるなど)が、どこから契約・発注に当たるかは、資料に書かれていません。迷うものは自分で判断せず、事務局に確かめましょう。

事例1:要件定義を委託費に入れたD社 「契約のあとに要件定義」に直す

何が問題になりそうだったか

D社には、このシステムを社内で開発する体制がなく、専用システムの開発を開発会社にすべて委託する計画でした。計画書の仕上げの段階で、システムの内訳が工程や機能ごとに分かれ、それぞれに金額が入りました。その1行目が「要求分析・要件定義・基本設計」です。要件定義(何を作るかを決める作業)が、開発会社への委託費として補助の対象に入っていることが、はっきりしたわけです。

ところが、計画書の文章は前の書き方のままでした。

2つ目の文は「要件を確定してから発注する」と読めます。補助の対象に入れた要件定義を、交付決定・契約の前に始める、つまり事前着手と見られるおそれがありました。1つ目の文からは、誰が要件定義をするのか分からず、自社の作業の分まで補助の経費に入っているのでは、とも読まれかねません。当社は、ここを必ず直す点に挙げ、直し方を提案しました。

あわせて当社は、見積の内訳が計画書と同じか、「契約→要件定義→設計→開発→検収」の順番と時期で問題ないかを、開発会社に確かめる事項に挙げました。

最終の計画書で変わったところ

スケジュール図で交付決定より前にあるのは、社内の検討(目的と目標、現場の課題と改善の方針、計画書、体制と予算)だけです。計画書では、開発期間を「要件定義から検収まで」とし、事業の期間の上限の半分ほどに収めて、余裕を残しています。遅れたときは、機能に優先順位をつけて段階的に使い始める対策も書かれています。

関係する公式の決まり(システムの開発)

事例2:借りる物件の内装を、交付決定のあとに発注するE社

E社は整体院を営む会社です。新しい事業として、借りる物件にジムを開く計画です。物件は内装のない状態で借りるため、内装工事(建物費)が要ります。計画書では、トレーニング機器(機械装置・システム構築費)と、開業のときの広告も、補助の対象の経費として挙げています。

当社は計画づくりの相談を受ける中で、内装がまだ契約前であることと、交付決定のあとに発注することを、E社に確かめました。E社の計画書には、次のように書かれています。

E社が申請の前に受け取ったのは概算の見積で、契約ではありません。正式な相見積は交付申請のときにそろえ、その中から発注先を決めます。選ぶのは、いちばん安い価格を出した会社です(公募要領 p.55)。交付決定のあとの流れは、計画書のスケジュールで次の順になっています。

  1. 交付決定・事業の開始
  2. 工事の図面と、建物の手続きの確認
  3. 交付申請で集めた見積から、内装・機器の発注先を決める(仕様は交付申請時の見積で確定)
  4. 内装の発注・着工、機器の発注
  5. 内装の完了・引渡し → 機器の設置・試しの運営
  6. 開業・開業時の広告
  7. 支払いの完了(補助事業の完了)→ 実績報告

関係する公式の決まり(建物の工事など)

交付決定までに進めてよい準備・避けること

進めてよい準備

交付決定の前に避けること

注意:すでに契約・発注・支払いをしたものは、補助の対象に入れられません(応募の前のものも同じです)。対象から外して計画を組み立てましょう。D社・E社の判断は、それぞれの事例でのものです。扱いは補助金や公募の回で変わることがあるので、申請する回の公募要領・手引きを確かめ、迷うときは事務局に問い合わせてください。

スケジュールの組み方:交付決定の日を起点に並べる

段階D社(システム)E社(内装)
交付決定の前社内の検討・見積概算見積・相見積
交付決定の直後発注・契約図面・手続きの確認
その次要件定義・設計発注先の決定・発注
中盤開発・研修・試行工事・機器の設置
終わり検収・支払い開業・支払い
最後実績報告実績報告
  1. 交付決定の時期を見込む:交付申請は採択発表から2か月以内です。交付申請から交付決定までの標準的な期間は、省力化が60日です(交付規程 第10条)。新事業進出・ものは約30日が目安で、直しが要ればさらにかかります(申請様式「応募申請画面インポート用フォーマット(スケジュール)」の「はじめに」)。どちらも、不備が続けば使える期間が短くなります(新事業進出・もの よくある質問 Q1、省力化 交付申請の手引き p.9)。
  2. 「発注・契約」は交付決定のあとに置く:その前は社内の検討と見積集めだけにし、要件定義・設計・着工などは契約のあとに並べます。
  3. 終わりから逆算して余裕を残す:期間内に、契約から支払い・実績報告の提出までを終えます(どちらも、報告の期限は遅くとも完了の期限日です)。実績報告を出す日数も残しておきます。省力化の計画書には、設備の取得時期などの詳しいスケジュールが要ります(公募要領 p.29)。
  4. 計画書・スケジュール図・見積をそろえる:D社で見つかったのも、この3つの食い違いでした。
  5. 支払いの資金を用意する:補助金は、実績報告を経て額が決まってからの支払いです(省力化 交付申請の手引き p.8、新事業進出・もの よくある質問 Q34)。E社は、入金までは自己資金で立て替える計画です。

チェックリスト:計画書を出す前・交付決定の前に確かめること

まとめ

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