採択のあとの交付申請(補助の対象にする経費を見積で示し、補助金の額を決めてもらう手続き)で、何度も差し戻される(事務局から直すよう求められて返される)。そのとき直すよう言われるのは、経費の中身だけではありません。見積書の受渡場所、設備の名前、有効期限、相見積の数といった、見積書という書類そのものの書き方も多く含まれます。

新事業進出補助金の交付申請ガイドにも、交付申請の書類の不備で最も多いのは、見積依頼書と見積書の不備だと書かれています。差し戻しが続けば、交付決定(補助金を出すことが正式に決まること)が遅れ、発注できる日も遅れます。

この記事では、当社が支援した2つの事例で見積書について実際に直した点を、公式資料の決まりと並べて紹介します。

※当社が実際に支援した事例をもとにしています。会社が特定されないよう、業種・地域・金額などの一部をぼかしています。

事例の全体の流れはA社の事例紹介とB社の事例紹介に、見積書のどの行が補助の対象外とされたかは対象外になった経費の記事にまとめています。この記事では、見積書という書類の整え方にしぼって掘り下げます。

この記事で分かること

※資料名のあとのページは、PDFのページ番号です(印刷されたページ番号とずれることがあります)。参照した版は、新事業進出補助金が補助事業の手引き(第1.8版)など、ものづくり補助金が最後の公募回(23次締切)の公募要領・補助事業の手引き(1.0版)などです。新事業進出補助金の交付申請ガイドは、公募の回ごとに冊子が分かれていて、回によってページが違うため、ページを書いていません。版や公募の回によってページや内容が変わるので、申請する回の最新の資料で確かめてください。

2つの事例で、見積書について直したこと

まず、2つの事例で見積書について指摘を受けたり、直したりした点を一覧にします。

確認点事例あったこと
受渡場所B社本店→実施場所の店舗
名前・型番B社書類ごとの名前を統一
有効期限A社空欄→期限を追記
有効期限B社期限切れ→全件差し替え
相見積A社同じ依頼書で3社ずつ
相見積B社3件→「2件でよい」
特注品B社補足説明書を追加
一式・諸経費A社諸経費の行を対象外に
一式・諸経費B社内訳を求められた

B社は交付申請を4回提出し、3回あった差し戻しのすべてに、見積書についての指示が入っていました。A社(約2か月で7回提出)のやり取りの中心は、どの行が対象になるかの線引きでしたが、見積書の書き方についての確認もありました。

書き方の指摘は、見積書を受け取った時点で確かめておけば、出し直しの回数を減らせます。ここからは確認点ごとに、「この事例では」「公式の決まりでは」「見積の段階で」の順に見ていきます。

① 宛名と受渡場所:申請した会社名・実施場所と同じに

この事例では:B社の見積書の宛名は、申請した会社名で問題ありませんでした。ずれていたのは「受渡場所」(品物を届ける場所)です。見積書では本店になっていましたが、設備を置くのは、計画書に補助事業の実施場所として書かれている別の店舗でした。1回目の差し戻しで受渡場所を実施場所の店舗に変えるよう指示があり、受渡場所を直した見積書に差し替えています。B社が使った交付申請の様式にも、実施場所の欄に「事業実施場所の変更はできません」と書かれていました。

公式の決まりでは:

見積の段階で:見積を頼むときに、「宛名は申請した会社名」「受渡場所(工事なら工事場所)は計画書に書いた実施場所の住所と事業所名」と伝えておきましょう。B社のように、本店と実施場所が違う場合はとくに注意が必要です。

② メーカー名・型番:すべての書類で同じ名前に

この事例では:B社の書類では、同じ設備が書類ごとに違う名前で書かれていました。たとえば真空包装機は、応募時の計画書の見出しでは「パッキング機械」、品名の欄では「真空包装機」。経費明細表(補助の対象にする経費の金額と内訳を書く表)には「パッキング機械」と入っていました。大型の冷凍庫も、計画書では「プレハブ冷蔵庫」、見積書では「プレハブ冷凍庫」です。

1回目の差し戻しでは、次の3点を指示されました。

  1. 見積書の件名か品名に、メーカー名を入れる
  2. 経費明細表の名前を、見積書と同じにする(メーカー名を含めた機械名と型番)
  3. 交付申請の計画書の「導入予定の機械装置の名称」も、同じ名前にする

さらに2回目の差し戻しで、経費明細表の機械名の後ろに型番を入れ、「一式」を「1台」に直すよう指示されました。経費明細表の書き方は、次のように変わっています(メーカー名と型番は伏せています)。

段階経費明細表の書き方
最初パッキング機械 ×1
1回目の直し○○社製 真空包装機 一式
2回目の直し○○社製 真空包装機(型番)1台

B社が使った交付申請の様式(経費明細表)には、提出前の確認欄として「積算基礎の製品名(または型番)と単価・数量が見積書と一致していること」と書かれていました(積算基礎は、金額の内訳を書く欄です)。見積書・経費明細表・計画書を、名前で突き合わせられるようにしておく必要があるということです。

公式の決まりでは:

見積の段階で:計画書を書く段階で、設備ごとに正式な名前を1つ決めておきましょう。「メーカー名+機械名+型番」の形にして、見積書の品名、経費明細表、計画書、その後の注文書や請求書まで、同じ書き方で通します。名前は、交付申請だけでなく実績報告でも、書類どうしを照合する手がかりになります。

③ 有効期限:空欄と期限切れを防ぐ

この事例では:

最初の提出から交付決定までは、A社で約2か月半、B社で約3か月かかりました。B社の60日の有効期限では、足りなかったことになります。

公式の決まりでは:どちらの補助金も、交付申請の時点で有効な見積書が必要です。ただし、そのあとの扱いの書き方が違います。

見積の段階で:

④ 相見積:同じ見積依頼書で、必要な数をそろえる

相見積(あいみつもり)は、値段が妥当かを比べるために、同じ条件で別の会社からも取る見積です。

この事例では:

公式の決まりでは:相見積の決まりは、補助金によって基準も数も違います。

これから申請する方へ:新事業進出補助金とものづくり補助金の公募は終わり、新しい申請の受付は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」に移っています(両補助金の公式サイトの案内)。その公募要領では、どの枠でも、発注先ごとの見積額の合計が50万円(税抜き)以上なら3者以上、広告宣伝・販売促進費は金額に関わらず複数者の見積が必要です。金融機関確認書を出した金融機関や、事業計画づくりの支援者などからの見積も認められません(公募要領 1.3版 p.32・p.55)。下の表のものづくり補助金の「2社以上」は、すでに採択された方向けの決まりです。
項目新事業進出ものづくり
要る金額合計50万円以上単価50万円以上
要る数3者以上2社以上
50万円未満1者以上※1社以上
依頼書必須・様式あり様式3か仕様書
例外販売元限定など合理的な理由
例外の手続事務局へ連絡業者選定理由書

※新事業進出補助金の広告宣伝・販売促進費は、50万円未満でも2者以上が必要です。金額は税抜き。「合計」は発注先ごとの見積額の合計、「単価」は1つの物の値段です。出典は、新事業進出補助金が補助事業の手引き p.27・p.28と交付申請ガイド、ものづくり補助金が補助事業の手引き p.15、公募要領 p.25。

なお、ものづくり補助金の交付規程(第11条)では、50万円以上の契約をするときに、2者以上の見積を取ることとされています。こちらの基準は、1つの物の単価ではなく、契約の金額です。単価が50万円未満の物でも、まとめて1社に発注して契約が50万円以上になるときは、2社以上から見積を取っておくと、手引きと交付規程のどちらにも合います。

参考までに、省力化投資補助金(一般型)は、発注先ごとの合計50万円(税抜き)以上で、原則として2者以上から取り、最も安い会社を選ぶ決まりです。その交付申請の手引きでは、相見積を取れない「合理的な理由」を、知的財産権や独占販売権などで販売元が限られていることが客観的に分かる理由としています。「かねてより付き合いがある」「アフターフォローが充実している」「近隣に契約先(発注先)が見つからない」などは、認められない例に挙がっています(p.14・p.15)。

見積の段階で:

⑤ 特注品・付属品:何か・なぜその数かを説明できるように

この事例では:B社の急速冷凍機の見積書には、本体とは別の行に「特注カート」と「特注カート仕様」(数量は複数)がありました。1回目の差し戻しでは、見積の補足資料として、①特注カート仕様が何を指すのか、②カートが複数あるのは予備品ではないのか、③二次側工事(建物側の電源や給排水と本体をつなぐ工事)の中身を、PDFで出すよう求められました。工事の中身によって、対象外かどうかを判断するとのことでした。

B社が出した補足説明書は1ページで、次の順に書いています。

  1. 表題:どの見積書の補足かが分かるように、見積書の件名をそのまま入れる
  2. 特注カートとは何か:食材を載せたトレイごと本体に差し込む専用の台車で、一般の台車や棚では規格が合わない
  3. なぜ複数か:カートを冷却に入れている間に、別のカートで次の食材を準備する。複数ないと工程が止まるため、予備品や将来用ではない
  4. 二次側工事の中身:専用の電源工事、給排水管の接続、排熱用のダクトの接続。設備を動かすのに欠かせない工事であること
  5. まとめ:どちらも本体を動かすための最低限の構成であること

それでも、2回目の差し戻しで、特注カートも二次側工事も補助対象外とされました。説明を求められたら出す必要がありますが、説明すれば認められるとは限りません。外れた行の扱いは、対象外になった経費の記事で詳しく紹介しています。

公式の決まりでは:特注の機械装置・工具器具・加工品は、設計図や回路図などの仕様書(図面など)を整えておくよう求められています(ものづくり補助金:補助事業の手引き p.15/新事業進出補助金:補助事業の手引き p.75・p.87)。予備品の購入費用は、どちらの補助金でも対象外です(ものづくり補助金:補助事業の手引き p.16/新事業進出補助金:補助事業の手引き p.75)。新事業進出補助金では、交付申請の追加資料として、価格の妥当性を示すパンフレットや仕様書、建物なら設計図書などを出します(補助事業の手引き p.30)。A社も、建物の設計図書を見積書と一緒に出しました。

見積の段階で:本体と別の行の特注品や付属品、とくに同じ物が複数ある行は、受け取った時点で「何か」「なぜ要るか」「なぜその数か」「本体とどう一緒に使うか」を短く書けるか確かめましょう。図面や仕様書、カタログも先に販売店からもらっておくと、すぐ出せます。そのうえで、対象外になっても資金計画が崩れないよう、余裕を持っておきましょう。

⑥ 一式と諸経費:中身が分かる行にしてもらう

この事例では:A社の工事の見積書は50ページ近くあり、経費明細表には300行近くを1行ずつ書き写しました。「1 式」と書かれた行も多くありましたが、それだけで外されたわけではありません。たとえば防災工事の章では、「機器取付工費」「調整試験費」「消防手続立会費」「交通費」といった「1 式」の行は、補助の対象のまま残りました。一方、同じ章の「諸経費 1 式」の行は、事務局から「この記載ですと」対象として認められないと指摘され、外しています。B社でも、「試運転調整費・現場諸経費」と1行にまとめられた行について内訳を求められ、現場諸経費は消すよう指示を受けました。

公式の決まりでは:

見積の段階で:見積依頼書に「行ごとに中身が分かる名前を付け、数量と単価を書く(『○○工事一式』とまとめない)」「諸経費は独立した行にする」と書いておきましょう。対象になりうる費用と諸経費が1行にまとまっていると、その行ごと内訳を求められます。どの行が対象外になりやすいかは、対象外になった経費の記事で1行ずつ紹介しています。

見積書を整える進め方

  1. 計画書を書くとき:設備の正式な名前(メーカー名・機械名・型番)と、実施場所の住所・事業所名を決める
  2. 見積を頼むとき:見積依頼書を1通作り、宛名・受渡場所・仕様・行の分け方・有効期限の希望を書いて、同じ内容で出す
  3. 受け取ったとき:下のチェックリストで確かめ、直してほしい点は交付申請の前に頼む
  4. 交付申請のとき:経費明細表と計画書の名前・数量・金額を、見積書に合わせる
  5. 差し戻しが続くとき・発注の前:有効期限をもう一度確かめる。ものづくり補助金で切れそうなら、早めに取り直しを頼む

チェックリスト:見積書を受け取ったら確かめる10項目

  1. 表題・発行日:「見積書」と分かる表題か。発行日が見積依頼書の日付より前になっていないか
  2. 宛名:申請した会社名と同じか
  3. 受渡場所・工事場所:計画書の実施場所(住所・事業所名)と同じか。本店のままになっていないか
  4. 有効期限:空欄でないか。交付申請の時点で有効か。ものづくり補助金は、差し戻しが続いても、発注の時点まで足りるか
  5. メーカー名・型番:件名か品名に入っているか。経費明細表・計画書と同じ名前か
  6. 数量・単価・内訳:「一式」だけの行がないか。個数がある物は、数量(1台など)と単価が書かれているか
  7. 諸経費:独立した行になっているか。ほかの費用と1行にまとめられていないか
  8. 税抜・税込:両方の金額が書かれ、内訳と合計が合っているか
  9. 相見積:同じ見積依頼書で、必要な数がそろっているか(新事業進出補助金と、これから申請する新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は3者以上。ものづくり補助金で採択済みなら2社以上)。相見積先に、身内の会社や、計画づくりを支援した機関・金融機関が入っていないか。最も安い会社以外を選ぶなら、理由を説明できるか
  10. 特注品・付属品:何か・なぜその数かを説明できるか。図面・仕様書・カタログがあるか
注意:ここで紹介した指摘や判断は、それぞれの事例で事務局から示されたものです。見積書の決まりは、補助金や公募の回によって変わることがあります。申請する回の最新の公募要領・手引きで確かめ、迷う点は事務局に問い合わせてください。

まとめ

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