補助金の計画づくりでは、どの機械を入れるか、どれだけ売れるかに目が向きがちです。けれども、「その場所で、その事業をしてよいのか」が確かめられていないと、計画そのものが成り立ちません。たとえば、製造の予定地が住宅向けの地域にある。借りる建物の契約が、投資の回収より短い。販売に別の免許が要る。どれも、申請の前に分かっていれば手が打てます。
この記事では、当社が支援した2社の事例をもとに、補助事業の「実施場所」で申請前に確かめたい点を、公式の資料と法律の条文で整理します。
- D社:建設業の会社。自社の拠点で金属製品を作る計画で、新事業進出・ものづくり補助金の申請を準備した
- E社:整体院を営む会社。新しく建つビルのフロアを借りてジムを開く計画で、新事業進出・ものづくり補助金の申請を準備した
どちらも、申請を準備した段階の話です。
補助金ごとの支援の流れは、事例紹介の記事(宿の新事業進出、冷凍食品のものづくり補助金、ICT建機の省力化投資補助金)にまとめています。
この記事で分かること
- 補助金でいう「実施場所」の意味と、申請のときに決めておくこと
- 用途地域(土地ごとに建ててよい建物の決まり)や、機械の届出・許可の確かめ方
- 借りる場所の契約期間と回収期間の並べ方、貸主の承諾の確かめ方
- 申請前のチェックリスト
※文中の「新事業進出・ものづくり補助金」は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のことです。資料名のあとのページは、当社が参照した版のPDFのページ番号です。法律は条文の要点だけをまとめています。決まりは回ごとに変わることがあるので、最新の公募要領・手引きと所管の窓口で確かめてください。
まず確認:補助金でいう「実施場所」とは
「補助事業実施場所」とは、補助の対象になるものを設置する場所、または格納・保管などで主に管理する場所のことです。「対象になるもの」は、新事業進出・ものづくり補助金では建物や機械装置など、省力化投資補助金(一般型)では機械装置などと書かれています(新事業進出・ものづくり補助金 公募要領 p.18、省力化投資補助金 公募要領 p.10)。ただし、新事業進出・ものづくり補助金でも、建物を建てたり改修したりする費用(建物費)が補助の対象になるのは、新事業進出枠とグローバル枠だけです。革新的新製品・サービス枠では対象外です(公募要領 p.29)。省力化投資補助金では、建物の取得費は補助の対象外です(公募要領 p.23)。そして、どちらも実施場所は原則として後から変えられません。
つまり申請は、「この場所で、この事業をする」と決めて出すものです。その場所で本当に事業ができるかは、申請の前に確かめておく必要があります。
2社の事例で見る、「場所」で確かめたこと
| 事例 | 確かめたこと |
|---|---|
| D社(製造) | 用途地域・機械の届出 |
| E社(ジム) | 契約期間・承諾・用途変更 |
D社:製造を予定した拠点が「住宅向けの用途地域」だった
D社は、自社の拠点の建物に、金属の板を切る機械や溶接の機械、コンプレッサー(圧縮した空気をつくる機械)などを入れ、金属製品を作る計画を立てました。当社は計画づくりを支援する中で、次の2点を確かめることにしました。
- その土地が、金属を加工する工場として使える地域か(用途地域と、市街化調整区域かどうか)。これは先方に確かめてもらいました。
- 入れる機械に、法律の届出や許可が要るか。これは当社で調べました。
先方の答えで、拠点の土地が「第一種住居地域」という住宅向けの用途地域だと分かりました。建築基準法の条文(別表第二)を当社で確かめると、作業の内容や機械によっては、原則として建ててはならない工場に当たるおそれがありました。そこで先方から市に確かめてもらうと、答えは「製造できる」。計画をそのまま進められることになりました。
機械の届出は、当社で洗い出しました。金属の板を切る機械やコンプレッサーなどが、騒音や振動の法律でいう「特定施設」に当たる見込みでした。D社の計画書では、「許認可・資格等の要否」は「必要」です。届出が要る機械と、届出を設置工事の30日前までに出すことが書かれています。溶接やクレーンの作業に要る資格者を、機械を動かす前にそろえることも書かれています。スケジュールでも、搬入・据付より前に「届出」の工程があります。騒音の見込みを市と確かめるのはこれからなので、当社は「確かめて届け出る」と、これから行う形で書くよう助言しました。
E社:借りるフロアは「契約期間」と「回収期間」を並べる
E社は、新しく建つビルのフロアを借り、内装を整えて機器を入れ、ジムを開く計画です。借り方は定期建物賃貸借で、契約の更新がなく、期間が来れば終わる賃貸借です(借地借家法 第38条)。当社が重視したのは、次の3点でした。
① 契約の期間の中で、投資を回収できるか
当社は、内装と機器にかけたお金を利益で取り戻すまでの年数(回収期間)を、契約の期間と並べて確かめました。補助がないと回収は契約の期間を超え、補助があれば期間の中で回収できる見通しです。E社の計画書の「公的補助の必要性」の欄には、補助がない場合の回収は契約の期間を超えるため、「契約の見送りを検討する必要が出てくる」とあります。「見送る」と言い切らない書き方は、当社の助言です。
当社が気をつけたのは、年数の数え始めです。E社の計画書では、契約の期間は内装工事を始めるときから数え、回収の年数は開業から数えています(契約の期間の数え始めは、当社からE社に確認をお願いしています)。起点が違うまま並べると、食い違って見えます。そこで当社は、計画書に「工事から」と書き添えるよう助言しました。再契約(契約を結び直すこと)の見込みがあっても、回収は当初の契約期間を目安に見る、と一言添えることも助言しています。
② 貸主の承諾を、書面でもらえるか
当社は、ジムとして使うことの承諾と再契約の意向などを、貸主(または管理会社)から書面でもらえないかを先方にお願いしました。メールでもよい、という形です。E社が計画書に「承諾を得ている」と書くなら、その裏付けを手元に持っておいてほしいからです。答えは「書面は出せないが、承諾は得ている」。E社の計画書は、承諾を得ていることは書いていますが、書面があるかのような書き方はしていません。
③ 建物の手続きを、工程に入れたか
E社の計画は、借りるフロアを運動の施設として使うため、建物の用途を変える手続き(建築基準法の用途変更の確認)を受ける前提です。確認は交付決定のあとに受け、済んでから着工する順番で、図面は設計者が貸主と調整して出します。消防への届出を、工事の前と開業の前に出すことも、計画書に書かれています。
ただ、用途変更の確認が本当に要るかどうかは、まだ分かっていませんでした。そこでE社の計画書では、この確認を「要る見込み」として工程に入れ、要らないと分かれば外すことにしていました。そのうえで当社は、要るかどうかと、かかる期間を、設計者や管理会社に確かめてほしいと先方にお願いしました。E社の答えは「要るかどうかは分からない。スケジュールは今のままで問題ない」でした。計画書の「許認可・資格等の要否」は「必要」のままです。分からない手続きは「要る」側で入れておけば、あとで外すだけで済みます。
公式の決まり:実施場所について書かれていること
新事業進出・ものづくり補助金
- どこまで決めるか:原則として、番地まで所在地が決まっている必要があります。新事業進出枠は市区町村まででも応募できますが、具体性や実現可能性が乏しいと判断されるおそれがあり、交付申請のときにも物件の妥当性などを改めて審査します(よくあるご質問 Q59)。
- 変更:交付決定の前は、採択された事業計画を変えること自体が、どんな理由でも認められません(公募要領 p.54)。交付決定のあとも、実施場所を変えることは原則として認められません(公募要領 p.56)。
- 計画書の欄:事業計画の様式(応募申請画面のインポート用フォーマット)に、「補助事業の実施場所」(所在地と選んだ理由)、「許認可・資格等の要否」、「取得する許認可・資格等の情報」(取得が要るものと取得時期のめど)の欄があります。
- 建物:建物費(建物の建設・改修の費用)が対象になるのは、新事業進出枠とグローバル枠だけです。建物の単なる購入や賃貸は対象外で、補助で取得した建物などを不動産賃貸などに転用することも認められません(公募要領 p.29)。
省力化投資補助金(一般型)
- 特定が必須:実施場所(工場や店舗など)の特定が必須です。交付申請の時点で建設中のものや、土地だけ確保して建てる予定のものは対象外です(公募要領 p.10)。
- 移動して使う機械:保管場所と使用場所が違う場合は、保管場所が実施場所になると図で示されています(応募申請の手引き p.8)。
- 自社の土地でない場合:交付申請で不動産登記事項証明書や賃貸借契約書などを出します。自社の所有地でないなら、交付申請までに所有権や使用権が申請者に移っている必要があります(公募要領 p.10、交付申請の手引き p.35)。
- 変更:実施場所の変更は原則として認められません。採択から交付申請までのあいだに変えるのも、やむを得ない理由を申請したうえでの事務局の判断になり、認められないことがあります(公募要領 p.38、交付申請の手引き p.7)。
許認可は「取ってから事業を始める」前提で
- どちらの補助金も、法令に違反する、または違反するおそれがある事業は対象外です。採択のあとでも、当てはまると分かれば取り消しになります(新事業進出・ものづくり補助金 公募要領 p.26、省力化投資補助金 公募要領 p.14)。
- 新事業進出・ものづくり補助金では、交付申請の時点でスケジュールどおりに進んでいないと、遅れの理由や実施できるかを確かめられ、遂行が難しければ採択の取り消しもあります(公募要領 p.54)。
- これまでの新事業進出補助金の実績報告ガイドには、許認可が要る事業は「許認可を取得したうえで事業化していることが必要」で、建物や設備が整っただけでは完了とみなさない、とあります(実績報告ガイド p.6)。今の補助金での扱いは、公開される手引きで確かめてください。
法律の確かめどころ
D社・E社の事例に関わる法律に加えて、事業の中身によって許可や免許が要る例として、廃棄物の処理とお酒の販売も挙げます。
| 確かめること | 主な法律 | 主な窓口 |
|---|---|---|
| 用途地域 | 建築基準法 | 市区町村など |
| 建物の用途の変更 | 建築基準法 | 建築確認の窓口 |
| 機械の届出 | 騒音・振動規制法 | 市町村 |
| 廃棄物の処理 | 廃棄物処理法 | 都道府県など |
| お酒の販売 | 酒税法 | 税務署 |
- 用途地域:用途地域ごとに、建ててよい建物・建ててはならない建物が決まっていて、建物の用途を変えて使う場合にも準用されます(建築基準法 第48条・別表第二・第87条第2項)。たとえば「第一種住居地域」では、機械(原動機)を使う工場で作業場が一定の広さを超えるものや、原動機を使う金属のせん断など一部の作業をする工場は、原則として建てられません。ただし、特定行政庁(市町村長または都道府県知事)が住まいの環境を害するおそれがないなどと認めて許可すれば例外です(第48条第5項)。この許可には、原則として、利害関係のある人の意見を公開の場で聞く手続きと、建築審査会(自治体に置かれる審査会)の同意が要ります(第48条第15項)。手続きを重ねたうえでの判断なので、気軽に頼める例外ではありません。市街化調整区域(市街化を抑える区域)では、建物の新築や用途の変更に都道府県知事(政令市・中核市では市長)の許可が要る場合があります(都市計画法 第7条・第29条第1項・第43条)。
- 建物の用途の変更:用途を変えて、法律の表(別表第一)に挙げられた「特殊建築物」にする場合で、その部分の床面積が200㎡を超えるときは、建築確認の手続きが要ります(似た用途どうしの変更は除く。建築基準法 第87条第1項・第6条第1項第1号)。特殊建築物には、学校・体育館に類するものとして「スポーツの練習場」なども挙げられています(施行令 第115条の3)。
- 機械の届出:著しい騒音や振動を出す機械(特定施設。一定以上の出力のせん断機や空気圧縮機など)を、指定された地域の工場などに設置するときは、設置工事を始める日の30日前までに市町村長へ届け出ます(騒音規制法・振動規制法 第6条)。すでに特定施設がある工場で特定施設を増やすときも、原則として工事の30日前までに変更の届出が要ります(どちらも第8条)。
- 廃棄物の処理:産業廃棄物の処分を業として行うには、原則として都道府県知事(政令市・中核市では市長)の許可が要ります(廃棄物処理法 第14条第6項、同法施行令 第27条)。
- お酒の販売:お酒を売るには、販売場(続けて販売をする場所)ごとに、所在地の税務署長の免許が要ります。もっぱら自分の店で飲んでもらう酒場や料理店などの営業は除かれます(酒税法 第9条)。そのため、店で飲んでもらう営業をしていても、新しい店でお酒を売るなら免許が要るかを確かめます。本店で免許を受けていても、支店で売るなら新たに免許が要ります。小売の免許は、店で売る「一般酒類小売業免許」、2つ以上の都道府県の消費者にネットなどで売る「通信販売酒類小売業免許」などに分かれます。一般酒類小売業免許の審査は、原則として申請の翌日から2か月以内(標準処理期間)です(国税庁「一般酒類小売業免許申請の手引」p.4・p.9)。
防ぎ方・進め方:場所の確認は、この順番で
- 場所を番地まで決め、自社の所有か借りるかを整理する。登記事項証明書や賃貸借契約書をそろえます。
- 用途地域と建物の用途を確かめる。窓口には、作業の内容・機械・広さを具体的に伝えます。答えまで日数がかかることもあるので、計画づくりの最初に頼みます。
- 機械ごとに届出・許可を洗い出し、期限と審査の期間をスケジュールに入れる。省力化投資補助金では、移動して使う機械は保管場所を実施場所にします(応募申請の手引き p.8)。新事業進出・ものづくり補助金では、当社が確かめた資料に同じ説明が見当たりません。定義(格納・保管などで主に管理する場所)からは同じ考え方になりそうですが、事務局に確かめると安心です。
- 借りる場所は、契約の中身を回収期間と並べる。契約期間の起点と、更新(定期建物賃貸借なら再契約)の条件を確かめ、回収は当初の契約期間で見ます。事業計画期間(補助事業が終わってから3〜5年)や、補助で取得した一定の財産を承認なしに処分できない期間(耐用年数による)とも並べておきます(新事業進出・ものづくり補助金 公募要領 p.12・p.58)。
- 貸主の承諾は、書面(メールでも)で残す。その用途で使うこと、内装を変えること、契約の期間と、更新や再契約の意向が対象です。
チェックリスト:申請の前に、場所を確かめる
- 所在地:実施場所を番地まで決めた。応募の時点で場所を決めておくのが原則で、市区町村まででも応募できるのは、新事業進出・ものづくり補助金の新事業進出枠だけ。その枠で市区町村までにするなら、交付申請までに物件を決める段取りがある。
- 所有か賃借か:登記事項証明書または賃貸借契約書をそろえられる。省力化投資補助金なら、交付申請までに所有権や使用権が自社に移る。
- 用途地域:用途地域と市街化調整区域かどうかを調べ、予定の作業・機械・広さで使えるかを窓口に確かめた。
- 建物の用途:用途を変えるなら、建築確認などの手続きが要るかを、設計者や窓口に確かめた。
- 機械の届出・許可:騒音・振動の特定施設など、機械ごとに要る届出や許可を洗い出し、期限をスケジュールに入れた。
- 移動する機械:実施場所をどこにするかを確かめた(省力化投資補助金は保管場所。ほかの補助金は事務局に確認)。
- 販売の免許:お酒など免許の要る品を売るなら、販売場ごと・売り方ごとの免許と、審査の期間を確かめた。
- 契約期間:借りる場所の契約期間の起点と、更新(定期建物賃貸借なら再契約)の条件を、回収期間・事業計画期間と並べた。
- 貸主の承諾:その用途で使うこと・内装を変えることの承諾を、書面でもらう段取りを決めた。
- 書き方:計画書の「実施場所」「許認可・資格等」の欄に、まだ済んでいないことを済んだように書いていない。
まとめ
- 実施場所は、機械などを設置・保管する場所です。採択や交付決定のあとは原則として変えられないので、その場所で事業ができるかを先に確かめます。
- D社は、製造の予定地が住宅向けの用途地域だと分かった段階で、市に確かめました。機械の届出は、期限と工程が計画書に入っています。
- E社の計画書では、契約期間と回収期間を、数え始めを書き添えて並べています。貸主の承諾は、書面があるかまで確かめました。
- 移動して使う機械は、省力化投資補助金では保管場所が実施場所です。お酒の販売のように、販売する場所ごとに免許が要る事業もあります。