計画書を出して、採択の知らせが届いた。ほっとするのもつかの間、次に届くのは「交付申請」の案内です。見積書、理由書、経費の明細……。事業が始まれば、今度は実績報告の証拠書類が待っています。
この記事は、計画書づくりは乗り切ったけれど、採択の後の手続きで手が止まっている方に向けて書きました。紹介するのは、ものづくり補助金の採択後に、交付申請と実績報告の手続きを当社と分担して進めたD社の事例です。
この記事で分かること
- 採択から入金までに、どんな手続きがあるか
- 専門家に頼んだとき、会社と専門家がそれぞれ何をしたか
- 海外のクラウドをカードで払う経費で困ったことと、その対応
- 自分で進めるときの注意点とチェックリスト
事例の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助金 | ものづくり補助金 |
| 取り組み | Webを使った新サービス |
| 主な経費 | サイト等の制作、海外クラウド |
| 交付決定額 | 200万円弱(補助率3分の2) |
| 当社の担当 | 採択後の手続き |
| 期間 | 交付決定から完了まで約10か月 |
D社は、Webサイトと記事・動画などのコンテンツ、海外のクラウドサービスを組み合わせた新サービスの計画で採択されました。応募の計画書づくりには、当社は関わっていません。当社が加わったのは、採択の後からです。
採択の後に待っている手続き
採択は「補助金を出す候補に選ばれた」段階にすぎません。ものづくり補助金の場合、このあと次の順に進みます(補助事業の手引き、実績報告資料等作成マニュアル、交付規程より)。
- 交付申請:見積書などをそろえ、補助の対象にする経費を固める申請です。原則として、採択発表から遅くとも2か月以内に出します。
- 交付決定:通知書に書かれた交付決定日から、発注や契約ができます。それより前に発注した経費は対象外です。
- 発注・納品・検収・支払い:検収(届いたものを確かめて受け取ること)も含め、決められた事業の期間の中ですべて終えます。
- 遂行状況報告:事務局から求められたときに、途中の進み具合と支払った額を報告します。
- 実績報告:事業が終わった日から30日を経過した日か、完了期限日の早いほうまでに出します。正式に出す前に、地域事務局の「事前確認」を受けます。
- 確定検査・額の確定・請求:書類(必要なら現地)の確認を経て補助金の額が決まり、請求してから振り込まれます。
- 事業化状況報告:入金の後も、毎年の報告が5年間続きます(合計6回)。
この事例での分担
当社が受け持ったのは、主に交付決定の後の、実績報告の書類の整理と作成です。その前の交付申請の段階でも、書類の洗い出しや経費の積み直しを手伝いました。計画書の作成や電子申請は受け持っていません。
進め方は、証拠書類はD社がそろえ、当社が整理する形にしました。
| 作業 | D社 | 当社 |
|---|---|---|
| 必要書類の洗い出し | ― | 一覧を作成 |
| 経費の積み直し | 概算を用意 | 積算と入力 |
| 見積依頼書・理由書 | 理由書の下書き | 作成・手直し |
| 発注・支払い | 実施 | ― |
| 遂行状況報告 | 進み具合の文章 | 様式と経費の表 |
| 実績報告の資料 | 証拠書類の提供 | 整理・作成 |
交付申請でしたこと
必要な書類と注意点を書き出す
最初に、交付申請で求められる書類と注意点を書き出しました。当社のメモに残る主なものは次のとおりです。
- 履歴事項全部証明書(会社の登記の証明書。発行から3か月以内)
- 電子申請システムからダウンロードする申請内容ファイル(Excel)。担当者のメールアドレス、役員の一覧、採択された枠との食い違いがないかを確認
- 会社全体の事業計画。基準の年度が見込みの数字なら、実績の数字に置き換える
- 経費明細表。見積書の金額と内訳に合わせ、消費税は含めない
- 見積書。「一式」ではなく内訳まで書かれ、税抜きの金額が分かり、発注するときに有効期限内であること。単価50万円以上のものは、同じ条件で2社以上から見積もりを取る
補助事業の手引きにも、書類に不備や不足があると交付決定ができず、結果として事業の期間が短くなると書かれています。「一式」だけの見積書は不可、有効期限切れに注意、相見積もりが取れないときは「業者選定理由書」を出す、といった点も手引きにある決まりです。
見積書が出ない海外のクラウドは「価格表の画面」と理由書で
D社の経費には、海外のクラウドサービスが2つありました。どちらもドル建ての月額払いです。2社とも「見積書は発行できない」という回答だったため、申込サイトの価格表の画面を見積書の代わりに出し、その理由を書いた理由書を添えました。
月額の費用は、使う予定の10か月分を積み上げました。ドルから円への換算は、交付申請の前1か月以内の日付の公表仲値(銀行が公表する基準のレート)を使い、その日付と銀行名を明記しました。ここまでは、当時の様式の注記や「よくある質問」にあった決まりです。D社では、あわせてその日の相場の画面も添付しました。
経費を見積もりに合わせて積み直す
応募のときの経費は、まだ大まかな数字でした。交付申請では、届いた見積書の内訳に合わせて1項目ずつ積み直します。D社では、応募時の内容が入った申請内容ファイルで300万円台だった補助金の額が、交付申請では200万円弱になりました。
途中まで経費に入っていたノートパソコンは、最終の交付申請には入れていません。なお、事務用のパソコンのように、ほかの用途にも使えるものは、公募要領で補助の対象外とされています。ものづくり補助金の公募要領には、「補助事業のみに使用することが明らかなものは除く」というただし書きが付いた回もありました(最後の公募の23次締切など)。今の受付先の補助金の公募要領にはこのただし書きがなく、購入費だけでなくレンタル費も対象外です。
費目や枠についての質問に答える
準備の途中では、D社から質問も受けました。見積もりの費目(経費の区分)については、「外注費ではなく、システム構築費として承認されているので、その費目で申請し、事務局から費目を直すよう指示があれば従う」と答えています。なお、採択されたからといって、応募のときの内容がすべて認められたわけではありません。買う予定の物や経費が補助の対象になるかどうかは、交付申請のときに事務局が審査します(補助事業の手引き)。
広告宣伝費を使えないか、という質問もありましたが、D社が採択された枠では使えない経費でした。ものづくり補助金では、最後の公募(23次締切)の公募要領でも、広告宣伝・販売促進費が対象になるのは、グローバル枠のうち海外市場開拓(輸出)の事業だけでした。一方、今の受付先の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」では、3つの枠のどれでも対象経費に入っています(最初の公募の公募要領)。
交付決定の後から実績報告までにしたこと
最初に「実績報告で要る書類の一覧」を作る
実績報告の支援を始めてすぐ、実績報告で必要になる書類の一覧を作りました。経費ごとに「機-1」「機-2」のような管理番号を振り、それぞれに要る書類を並べて、そろったものに「済」を付けていく表です。
- 見積依頼書・見積書・相見積書
- 注文書・受注書・納品書・請求書
- 振込の控え(振込依頼書)
- 画像データ(写真や画面の写しを台紙に貼ったもの)
- 費目別支出明細書、経費明細表、取得財産等管理台帳、出納帳、通帳のコピー(表紙も)
表には、納品書に「検収した日付」「検収した担当者の名前」「検収」の文字を書き込むこと、ネットで注文して請求書が出ない場合は注文画面のコピーで代えることも書き添えました。どちらも実績報告資料等作成マニュアルにある決まりです。マニュアルには、見積依頼から支払いまでの日付の順序や、すべての書類への管理番号の記入といった確認点も載っています。
海外のクラウドは「カード払いしかない」
書類がいちばん多くなったのは、海外のクラウドサービス2つでした。どちらも月額の定期払いで、請求書払いができず、受注書や納品書も出ません。支払い方法はクレジットカードだけです。
そこで、利用を申し込む前に、カード払いしか方法がない理由を書面(理由書)にまとめました。この理由書は、交付申請のときの「見積書が無い理由書」とあわせて、実績報告の資料にも入れています。
実績報告では、毎月の支払いごとに次の4つをそろえました。
- サービス側の請求書
- 領収書
- クレジットカードの利用明細
- カード代金が口座から引き落とされた記録(通帳の写し)
2つのサービスで8か月分ずつ、かなりの量です。明細書には「機-2①」「機-2②」のように月ごとの番号を付け、1回ずつ、口座から引き落とされた日を支払日として載せました。D社では、最後の引き落としの3日後が事業の完了日です。
交付申請では10か月分で積み上げましたが、実際に対象にしたのは8か月分でした。主にそのため、実績報告で申請した補助金の額は、交付決定額より6万円ほど少なくなっています。クラウドの利用料は、事業の期間中の分だけが対象です(補助事業の手引き)。
申込日の証拠を補うため、海外の窓口に問い合わせた
クラウドでは、「いつ申し込んだか」の証明も必要でした。補助の対象は、交付決定日以降(当日を含む)に発注・契約したものだけです。ところが、この2つのサービスは受注書を出しません。D社は申し込んだときの画面を保存しておらず、片方のサービスでは、申込のときに届いたお知らせメールもすぐには見つかりませんでした。サービス側の請求の履歴だけでは証拠として足りない、とも言われていました。
そこでD社の代表の方が、2つのサービスのサポート窓口に英語で問い合わせました。1社からは「申込の領収書は出せない」と言われましたが、アカウントを作った日が分かる支払い履歴の画面を送ってもらえました。もう1社からは、アカウントの作成日を証明するメールが届きました。D社はこれらに日本語の訳と、どの資料と照らし合わせればよいかのメモを付けてまとめています。申込日は、交付決定日の1か月ほど後でした。
途中の報告(遂行状況報告)
交付決定から3か月あまりたった時点を基準日として、遂行状況報告の書類を作りました。マニュアルでは、基準日は「交付決定日の属する月の翌月から数えて3か月後の末日」、提出期限は「基準日の翌月15日」とされています。
当社が様式と経費の表(基準日の時点で支払い済みの額)を用意し、進み具合の文章はD社に書いてもらいました。記事の原稿や画像がどこまでできたか、動画は後半にまとめて作る予定であること、遅れはないことを、具体的に書いています。
実績報告の資料一式は、9つの版を重ねた
実績報告の資料は、マニュアルが決めているフォルダの分け方(「A-1 実績報告書」「A-2 出納帳」「B-1 機械装置・システム構築費」など)に合わせて、電子ファイルでまとめます。
D社の成果物はWebサイトや記事、動画で、機械のような設置前後の写真はありません。そこで画像データの台紙には、サイトの画面やクラウドの管理画面の写しを、作業の項目ごとに貼りました。
資料一式は、作り直すたびに日付を付けて保存しています。最初の版から最終版まで1か月半あまりで、版は9つになりました。カード代金の引き落としの記録が月ごとに増えたことなどで、少しずつ中身が変わっています。
実績報告は、正式に出す前に地域事務局の事前確認を受け、直す点を直してから提出する流れです(実績報告資料等作成マニュアル)。期限の直前に作り始めると、このやり取りの時間が足りなくなります。
専門家に頼むと何をしてもらえるか
この事例で当社が担ったのは、主に次のことです。
- 交付申請・実績報告で要る書類の洗い出しと、そろい具合の管理
- 経費の積算、見積依頼書・理由書の作成や手直し
- 遂行状況報告・実績報告の様式づくりと、証拠書類の整理(管理番号・ファイル名・フォルダ分け)
- 費目や対象になる経費についての質問への回答
反対に、決まりの上で会社自身が行うこともあります。
- 支払い:銀行振込は補助事業者自身が行います。代行振込は国内・海外とも認められていません(補助事業の手引き)。
- 検収:補助事業の実施場所で行い、納品書に日付・担当者名・「検収」の文字を書きます(マニュアル)。
- 原本の保管:確定検査で経理の証拠書類の原本が確認できないと、補助の対象にならないことがあります(補助事業の手引き)。
- 証拠の確保:申込画面の保存や取引先への書類の依頼は、取引をしている会社が自分で行うことになります。
- 入金後の報告:事業化状況報告は5年間続きます(補助事業の手引き)。
なお、交付申請や実績報告の書類づくりを専門家に頼む費用は、補助の対象になりません。公募要領で「報告書等の事務局に提出する書類作成・申請に係る費用」は対象外とされています。
自分で進めるときの注意
- 海外やネットの取引は、代わりの書類を早めに確かめる:海外から調達するときも見積書は必要で、カタログや価格表なども余裕を持って入手するよう、公募要領や手引きに書かれています。見積書が出ない場合に価格表の画面などで代えてよいかは、交付申請の前に事務局へ確かめます(D社は価格表の画面と理由書を出し、その内容で交付決定を受けました)。請求書が出ないネット注文は、注文画面のコピーで代えます(マニュアル)。
- 支払い方法は申し込む前に確かめる:振込ができない相手なら、使う前に事務局へ相談します。ものづくり補助金のマニュアルでは、カード払いは原則として認められず、10万円未満の少額は事前に連絡した場合に限り、個別に認めることがある、とされています。取引先がカード払いしか受け付けない場合は、「よくあるご質問」で、事前に事務局へ相談するよう案内されています(支払う前に相談した日と、応じた事務局の担当者名を、印刷した領収書などの余白に書いておく例も載っています)。扱いは補助金ごとに違います。
- 月額の費用は「何か月分」と「最後の支払日」を先に決める:最後の支払いまで、事業の期間内に収めます。
- 変更は買う前に連絡する:見積書の内容が交付申請のときから変わる場合は、軽微な変更でも購入前に事務局へ連絡するよう、マニュアルに書かれています。
チェックリスト:採択後の手続きを進めるとき
- □ 交付申請の必要書類と期限(原則、採択発表から2か月以内)を書き出した
- □ 見積書は内訳まで書かれ、税抜きの金額が分かり、発注のときに有効期限内である
- □ 単価50万円以上のものは、同じ条件で2社以上の見積もり(取れないときは理由書)がある
- □ 見積書が出ない取引は、代わりの資料で足りるかを交付申請の前に事務局へ確かめた。請求書が出ないネット注文は、注文画面のコピーを残した
- □ 外貨建ての経費は、換算に使う日付・レート・銀行の決まりを、その補助金の手引きで確かめた
- □ 発注や申込は交付決定日以降に行い、申込画面やお知らせメールをその日に保存した
- □ 支払いは会社名義の銀行振込。カード払いしかない取引先は、申し込む前に事務局へ相談し、相談した日と担当者名を記録した(扱いは補助金ごとに違う)
- □ 経費ごとに管理番号を振り、見積依頼から振込までの書類を番号ごとにそろえている
- □ 月額の費用は、対象にする月数と、最後の支払いが期間内に収まるかを確かめた
- □ 実績報告は事前確認のやり取りも見込んで早めに作り始め、入金後5年間の報告と書類の保管も段取りした
まとめ
採択はゴールではなく、手続きのスタートです。D社の事例では、交付申請で見積書と経費を固め、交付決定の後は書類の一覧をもとに、証拠を月ごとに積み上げていきました。特に、海外のクラウドをカードで払う経費は、見積書や納品書が出ないうえ、申込日の証明にも苦労しました。
専門家に頼めるのは、書類の洗い出しや様式づくり、形式や金額の確認といった部分です。支払いや検収は会社自身が行い、証拠の確保も会社が中心になります。自分で進める場合も、専門家に頼む場合も、最初に「何を・いつまでに・誰が用意するか」を一覧にしておくことが近道です。