補助金は、事業が終わってから振り込まれる「後払い」です。その前に必ず、実績報告(事業が終わったあとに、何にいくら使ったかを証拠の書類とともに報告する手続き)があります。書類に不足や食い違いがあると差し戻され(出し直しを求められ)、入金が遅れます。直しきれないまま期限を迎えると、補助金を受け取れないこともあります。
落とし穴の多くは、報告書を作る前の「支払い」や「工事・納品」の段階で生まれます。たとえば、支払いのあとに発行された請求書は認められません。工事前の写真のように、着工すると撮れないものもあります。
この記事では、当社が支援している2つの事例で、交付申請から実績報告の準備までに分かったことと、公式資料の決まりを、「支払いの前」「工事・納品のとき」「報告書を作るとき」の順に紹介します。
この記事で分かること
- 請求書の日付・振込額・分割払いで、振り込む前に確かめること
- 工事・納品のときに準備する写真、収入印紙、保険・共済
- 報告書をまとめる順番と、作り直しを求められやすい書き方
- 新事業進出補助金・ものづくり補助金・省力化投資補助金(一般型)で違う点
この記事で取り上げる事例
- A社(新事業進出補助金):宿の建物の新築(工事費・設計費)。交付決定を受け、実績報告に向けて書類を準備中
- B社(ものづくり補助金):名物料理を冷凍品にするための設備(急速冷凍機・大型冷凍庫など)。中核の設備の納期が遅れて事故等報告書を作成し、実績報告の準備も始めている
採択から交付決定までの経緯は、事例の全体像の記事(A社の事例、B社の事例)で紹介しています。この記事では、実績報告にしぼって掘り下げます。
実績報告で見られる「日付の順番」
実績報告では、事務局が書類を1つずつたどり、日付が正しい順番になっているか、見積書・契約書・請求書・振込額の金額と明細がつながっているかを確かめます。日付の順番は、ものづくり補助金の「実績報告資料等作成マニュアル」や、省力化投資補助金(一般型)の「実績報告の手引き」に図で示されています。
- 見積書:契約(発注)の時点で有効期限が切れていない(ものづくり・省力化の場合。新事業進出補助金は、交付申請の時点で有効期限内のもの)
- 契約書(注文書と受注書):交付決定(補助金を出すことが正式に決まること)の日以降
- 納品書・検収書:契約のあと。検収(届いたものを確かめて受け取ること)の日が「取得した日」になる
- 請求書:納品・検収のあと(例外は下の囲み)
- 振込の記録:請求の日以降で、補助事業の完了の日まで
支払いの前:請求書・振込額・分割払い
この事例では:請求書と振込額が合っていない回があった
A社の宿の工事代金は、何回かに分けて支払う契約です。当社では、A社の実績報告に必要な書類を経費ごとに並べたチェックリストを作り、書類ごとに「済」「要修正」「作成中」の印をつけています。分割払いの請求書・振込の記録・通帳のコピーは、支払いの回ごとに1行ずつ確かめる形です。
このチェックで、工事代金の請求書の金額と、実際に振り込んだ金額が合っていない回があることが分かりました。この記事では、同じことを起こさないための決まりと予防策を紹介します。
決まり:請求書は「契約のあと・支払日まで」に出されたもの
新事業進出補助金の「実績報告ガイド」には、請求書で確かめる点が次のように示されています。
- 請求日:契約のあとで、支払日以前(支払いと同じ日でもよい)。支払いのあとに発行された請求書は認められない
- 請求先・請求元:請求先は補助事業者の名前、請求元は発注先の名前と完全に一致
- 金額・数量:実績報告に入力する契約の情報と一致。値引きがあれば、値引き後の単価が分かる
- 明細:「一式」ではなく、品目ごとの明細が分かる。補助の対象外が混ざるときは、マーカーなどで区別する
大事なのは請求日です。実績報告ガイドには「支払い後に発行された請求書は認められません」とあります。請求書と振込額の食い違いは、振り込む前に見つけてそろえておくのがいちばん確実です。
振込額は「請求額どおり」。手数料を差し引かない
振込の記録で確かめられるのは、主に次の点です(新事業進出補助金の実績報告ガイドなど)。
- 振込額が請求額以上で、振込先が発注先の口座であること
- 振込元が自社名義の口座であること。振込依頼書やATMの明細の「依頼人」の欄だけでは名義の確認にならず、通帳の表紙などで示す
- 振込が完了していること(振込予約の画面は支払いの証拠にならない)
- 補助事業の経費とそれ以外の経費をまとめて払う「混合払い」をしていないこと
ものづくり補助金では、振込金受取書など金融機関が出す書類が原則で、通帳のコピーでは代わりになりません。
見落としやすいのが振込手数料です。手数料は補助の対象外で、請求額から差し引いて振り込むと、その分は値引きとして扱われ、補助の対象が減ります(ものづくり補助金の補助事業の手引き、省力化投資補助金の実績報告の手引き)。
支払い方法は銀行振込が基本。細かい点は補助金で違う
支払い方法の決まりは、公式資料では次のとおりです。
- 新事業進出補助金:銀行振込の記録で確認。クレジットカードは、やむを得ない場合に限り事前相談のうえ例外的に可。決済サービスは銀行振込とみなされない
- ものづくり補助金:銀行振込が原則。相殺・手形・小切手・ファクタリング(債権譲渡)・代行振込・期間内に終わらない割賦(分割払い)は一切不可。現金・カードも原則不可(10万円未満の少額は事前に相談)
- 省力化投資補助金(一般型):銀行振込(口座振替も可)に限る。現金を持ち込んでの振込も不可(カード払いしかできない経費は事前に相談)
分割払いは「最後の1回」まで期限内に
工事や大型の設備では、代金を分けて払うことがよくあります。どの補助金でも、補助事業の期間内に払い終えることが条件で、払い終わらなかったときの扱いは厳しく決められています。
- 新事業進出補助金:期間内に終わっていない支払いが1回でもあると、その契約に含まれる経費がすべて対象外(補助事業の手引き)
- ものづくり補助金:期間内に終わらない割賦による支払いは一切認められない(補助事業の手引き)
- 省力化投資補助金(一般型):支払いが終わっていない費用は対象外。50万円以上の機械が対象外になると、事業として全額が交付されない(実績報告の手引き)
A社でも、工事代金の最後の回を完了期限までに払い終えることを、いちばん大事な確認事項にしています。期限ぎりぎりに置くと報告書を直す時間もなくなるので、最後の回は余裕のある日にしておきましょう。
振り込む前の「3点合わせ」
分割払いのときは特に、回ごとに次の3つがそろっているかを、振り込む前に確かめます。
- 契約書の支払条件:何回に分けて、いつ、いくら払うかが書かれているか
- その回の請求書:契約のあとの日付で、宛名・発行元・明細が正しく、金額が支払条件と同じか
- これから振り込む額:請求額と同じか(手数料を差し引かない)。振込先は請求書の口座か
合わない点があれば、振り込む前に発注先と話して請求書を直してもらいます。新事業進出補助金の補助事業の手引きでは、着手金や中間金のような先払いがあるときは、契約書などにその旨を書くよう求めています。省力化投資補助金(一般型)の手引きには、請求書に支払条件の記載がないと、事務局から確認の連絡が来ることがあるとあります。支払いの回数や金額は、契約書にも請求書にも書いておくと安心です。振り込んだら、完了画面や明細はすぐ保存しましょう(ネットバンキングは照会期間を過ぎると出せないことがあります)。
工事・納品のとき:写真・収入印紙・保険・納品場所
写真は「あとから撮れない」ものから撮る
写真は、補助の対象のものが計画どおりに入ったことを示す証拠です。ものづくり補助金のマニュアルにも「納品時などの写真は、後で撮り直すことができません」とあります。撮る場面は補助金によって違います。
- 新事業進出補助金(建物):工事前・中・後。前と後は外観と内観、工事中は内観。外観は建物の対角の2つの角から2枚、内観は部屋ごとに対角の2つの角から2枚(床・壁・天井が分かるように)。同じ工事と分かる写真にする
- 新事業進出補助金(共通):事務局が指定するスマートフォン用の撮影アプリで撮る(日時と場所が記録され、加工できない)。使わないと写真の信頼性が確かめられず、交付できない場合がある
- ものづくり補助金(機械):設置前のスペース、搬入時、送付伝票、設置後の4つの場面をすべて
- 省力化投資補助金(一般型):背景を含めた機械の全体(付属品も)、管理番号のシールを貼った状態、シールの文字が読める写真
A社のチェックリストにも、建物費の決まりどおり、工事前・中・後の写真が入っています。工事前の写真は着工すると撮れません。B社のように設備の納期が読みにくいときも、設置前のスペースは先に撮っておけます。なお3つの補助金とも、機械などには管理番号のラベルやシールを貼り、書類の番号とそろえるよう求めています。
工事請負契約書の収入印紙
新事業進出補助金で建物費を計上するときは、工事請負契約書(または注文書・注文請書・契約約款のセット)を出します。実績報告ガイドでは、この契約書に収入印紙が貼られているかを確認するよう求めています。新事業進出補助金では、機械の導入でも、電気工事や設置工事を伴うときは工事請負契約書が必要です。
印紙代そのものは、3つの補助金とも補助の対象外です(各補助金の公募要領など)。A社のチェックリストでも、契約書の印紙は確認項目の1つです。
保険・共済は「入るかどうか」から補助金で違う
保険・共済の条件は補助金ごとに違います。付保割合とは、建物や設備の価値に対して、保険でどこまで備えるかの割合です。
- 新事業進出補助金:加入が義務。補助率以上の付保割合で、風水害を含む自然災害を補償し、少なくとも事業計画期間の終わりまで続くもの。実績報告で保険証券の写しなどを出す
- ものづくり補助金:付保割合50%以上で、自然災害を含む損害を補償する保険・共済への加入を「強く推奨」(補助事業の手引き)。後継の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」では、補助率以上の付保割合での加入が義務(公募要領)
- 省力化投資補助金(一般型):機械を導入する場合は加入が必要。付保割合50%以上で、火災・風災・水災のいずれかを補償。保険の期間に実績報告の日を含み、事業計画期間を満たす(1年ごとの契約なら更新が前提)
新事業進出補助金の実績報告ガイドでは、保険証券で、契約者と被保険者が補助事業者の名前か、保険の対象の住所が実施場所か、取得財産等管理台帳に載せる建物や設備が補償の対象か、契約の終わりの日などを確かめます。A社は補助率が2分の1なので、付保割合も2分の1以上が必要です。保険料は補助の対象外です。引き渡しや納品に合わせて手配しておきましょう。
納品・検収は「計画書の実施場所」で
B社では交付申請のとき、見積書の受渡場所が本店になっていたため、計画書に書かれた実施場所の店舗に直すよう指示がありました。実績報告でも「場所」は確かめられます。新事業進出補助金では納品書などに納品場所が書かれている必要があり、検収は必ず実施場所で行います。ものづくり補助金でも、実施場所に引き渡されないものは対象外です。
検収の記録には「検収した日付」「担当者の名前」「検収」の文字の3つを書きます。納品日や受け取った日ではなく、この検収の日が、取得財産等管理台帳に書く「取得した日」になります。
納品や工事が遅れそうなら、すぐ事務局へ
B社では、中核の設備の納期をメーカーが確定できなくなり、期間内に納品・据付・支払いを終えられないおそれが出たため、事故等報告書(自社の責任ではない理由で期間内に終わらない見込みのときに出す報告書)を作りました(くわしくはB社の事例の記事)。新事業進出補助金・ものづくり補助金とも、こうしたときは速やかに事故等報告書を出して指示を受けるよう交付規程で定めています。新事業進出補助金では、期間の延長は原則認められず、事故等報告による延長も原則1回までです。
報告書を作るとき:まとめる順番と書き方
書類は「経理書類→明細→報告書」の順にまとめる
ものづくり補助金のマニュアルでは、①経理書類(見積書・注文書・納品書・請求書・振込の記録など)をそろえて管理番号をつける、②費目別支出明細書(経費の区分ごとの支出の一覧)、③経費明細表、④実績報告書、⑤取得財産等管理台帳・出納帳・写真など、の順に作るよう示しています。写し間違いや、端数・合計の計算のミスが多いとも書かれています。
A社でも、費目別支出明細書などの集計の書類は、ほかの書類がそろってから最後にまとめます。証拠の書類には、新事業進出補助金なら「建-1」のような管理番号を右上に書きます。
工事費は「最終の内訳書」。中身を変えるなら先に相談
新事業進出補助金で建物費を計上するときは、工事が終わったあとの工事費の内訳書(明細書)を出します。契約のときのものでも完了のときのものでもかまいませんが、「最終の費用の内訳」であることが条件です。新築なら、平面図と立面図などの竣工図(できあがったときの図面)も必要です。
実績報告ガイドには、補助金を交付できない主な例として、次のようなものが挙げられています。
- 当初の見積より安い施工内容に変えたのに、当初の金額のまま報告した
- 補助事業に関係のない工事を含めて報告した
- 建物を事業計画と違う用途(今までの事業など)に使っている
交付決定のあとに中身を変えるときは、前もって事務局の承認が必要な場合があります。ものづくり補助金のマニュアルでも、品名・型番・金額などが変わるなら、軽い変更でも購入の前に連絡するよう求めています。
成果の書き方:設備が入っただけでは「完了」にならない
実績報告では、お金の使い方だけでなく、事業の中身も確かめられます。
- 新事業進出補助金:建物の完成や設備の導入だけでは完了とみなされず、応募のときに入力したスケジュールの内容がすべて終わっている必要があります。許可が必要な事業は、許可を取って事業を始めていることも条件です(実績報告ガイド)。A社の宿も、営業の許可が必要な事業です。
- ものづくり補助金:設備を入れただけでは補助の対象にならず、新しい商品やサービスにどうつながったかを事業の期限内に確かめて報告します(マニュアル)。
同じマニュアルには、作り直しを求めるケースとして、数行だけの記載、交付申請書を写しただけの記載、写真を並べただけの報告、「大幅に削減した」のように数字のない成果などが挙げられています。
B社では交付申請のときに、1日あたりの製造量の目標を決め、設備が入ったあとの体制で実際に作れたかを確かめる方法にしました。アンケートの目標も、期間内に実施して評価する形に直しました。確かめ方を先に決めておくと、実績報告で何を数字で示せばよいかがはっきりします。
期限と、提出前の確認の時間
実績報告の期限は、3つの補助金とも「補助事業が完了した日から30日を過ぎる日」か「完了期限の日」の、どちらか早い日です。省力化投資補助金(一般型)の手引きには、期限を過ぎると受け付けられず、補助金を受け取れないと書かれています。
ものづくり補助金では、正式に出す前に、担当の地域事務局へ電子メールで書類を送って確認を受けます。マニュアルには、一度出したものの不備があり、時間切れで支払いが間に合わなかった例も載っています。直しの時間まで見込んで、支払いと書類集めは早めに終えましょう。
確定検査(実績報告のあとに事務局が行う検査)では書類の原本を確かめられることがあり、原本がないと対象外になる場合があります。保存の期間は3つの補助金とも5年間です(数え始めは各補助金の決まりで確認を)。
時期別チェックリスト
A社・B社の準備と公式資料の決まりから、時期ごとに確かめたい点をまとめました。
振り込む前
- 契約書の支払条件(回数・時期・金額)、その回の請求書の金額、これから振り込む額の3つが同じか
- 請求書は契約のあとの日付か。宛名・発行元が契約書と同じ名前で、「一式」ではなく明細があり、対象外の項目は区別できるか
- 自社名義の口座から請求書の口座へ、請求額どおりに振り込むか(手数料を差し引かない。関係のない支払いとまとめない)
- 分割払いの最後の回が、完了期限より余裕をもって前に終わる日程か
納品・工事のとき
- 工事前・設置前の写真を撮ったか(新事業進出補助金は事務局が指定するアプリで)。工事中・搬入時・設置後も、補助金ごとの決まりどおりに撮っているか
- 納品と検収は計画書の実施場所か。検収の日付・担当者の名前・「検収」の文字を残したか
- 工事請負契約書に収入印紙が貼られているか。保険・共済に入り、名義・対象の住所・補償の対象・期間・付保割合を確かめたか
報告書を出す前
- 支払いの回ごとに、請求書・振込の記録・通帳のコピーがそろっているか
- 最終の工事費の内訳書・竣工図、取得財産等管理台帳(取得日は検収日)、写真の台帳を作り、証拠の書類すべてに管理番号を付けたか
- 実績報告書に、計画に対して何をして、どんな成果が出たかを数字で書いたか。期限に間に合うか(ものづくり補助金は事前確認の時間も見込む)
扱いは、補助金や公募の回、資料の版によって変わることがあります。最新の公募要領・補助事業の手引き・実績報告の資料で確かめてください。
まとめ
実績報告の落とし穴は、報告書を作る前に生まれます。請求書は、契約のあとで、支払日まで(支払いと同じ日も可)に出されたものでなければなりません。分割払いは最後の1回まで期限内に払い終え、振込は請求額どおりに行います。工事前・設置前の写真のように、あとから用意できないものもあります。
保険や支払い方法の細かな決まりは補助金ごとに違います。A社のように、必要な書類を経費ごと・支払いの回ごとに並べたチェックリストを作り、支払いのたびに確かめると、食い違いを振り込む前に見つけやすくなります。